インターネット広告の新しいKPIと「アテンション」の再定義:「広告のムダ打ち」をなくすためにできること【第5回】
最終回となる今回は、ターゲットに届いた広告の効果を正しく測定するための指標として「アテンション」の概念を再定義するとともに、新しいインターネット広告のKPIについて考えます。
この連載ではこれまで、「広告がターゲットに正しく届いた」ことを確認するために何に留意すべきかを考えてきました。正しい計測には「アドフラウド」「ビューアビリティー」「ブランドセーフティー&スータビリティー」「ジオ」の4つの視点からの検証が必要であることは、ご理解いただけたと思います。
しかし、当然のことながら、広告はただ見られさえすればいいというわけではありません。広告主が知りたいのは、その広告が本当に注目され、効果を発揮しているかどうかです。そこで知っておきたいのが、「アテンション(認知・注意)」を指標とする考え方です。
いま「アテンション」が再評価される理由
「なぜ今さらアテンション?」と思われる読者もいるかもしれません。広告効果指標としてアテンションが最初に注目されたのは1920年代にさかのぼります、当時の米国の広告実務書の著者であるローランド・ホール氏が、消費者の購買プロセスをアテンションで始まる5段階で説明するモデルを提唱したのです。
- Attention(認知・注意)
- Interest(関心)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
これは「AIDMAの法則」として知られるもので、広告の役割を最初のステップであるアテンションの獲得とする理論は広く受け入れられました。しかし、一方通行のマスメディア広告でアテンションを正確に測定することは非常に困難でもありました。
後に台頭したインターネット広告は、WebブラウザのCookieやモバイル端末の広告用識別子(AppleのIDFAなど)を追跡することで、広告を視聴した消費者の行動を捕捉できることを強みとしてきました。そして、アテンションではなく、広告を見た後の検索や実際の購入などの行動を「コンバージョン」として測定し、KPI(重要業績評価指標)とすることが主流となったのです。現在、インターネット広告を出稿する広告主の多くが、コンバージョンのために配信先の最適化とクリエイティブの最適化に取り組んでいます。
DoubleVerify Japanがデジタルインファクトと2023年9月~10月に実施した「広告品質およびアテンション指標に関する意識調査」によると、約95%のマーケターはビューアビリティー、ブランドセーフティー、アドフラウド(不正行為)などの広告品質に関連した指標を重視しています、また、半数以上が「コンバージョン数」や「CPA」など、最終的な事業成果にできる限り近い指標を重視しています。
一方で、インターネット広告のアテンションについて意識している広告主はまだ多くありません。国内のマーケターで「アテンション指標」という単語を耳にしたことがない人、耳にしたことはあるがその内容についてはよく分からない人の割合は63.1%に上りました。上記の結果は、広告の品質も最終的な成果も重視するものの、その間をつなぐ指標が存在していないことを示唆しています。適切な配信面を通じて適切なターゲットユーザーに適切なメッセージやクリティブを届けることで、広告効果は確実に高まるはずです。
そこで、良質な広告品質を基盤に広告効果と密接に関連した形で広告のパフォーマンスを計測するために注目すべきが、アテンションです。ビューアビリティーの最適化だけに偏るのではなく、アテンションと併せてバランスを考慮しながら最適化することで、効率良くコンバージョンを実現しつつ、ブランドリフトを目的としたキャンペーンに対しても最適化ができるようになります。伝統的なKPIにアテンションを追加することで、インターネット広告はより効率的になり、用途を広げることもできるということです。
ビューアビリティーを深掘りする指標
DoubleVerifyは、インターネット広告がブランドにとって安全な環境かつ意図した地域で、実際に人間によって見られたかどうかを評価するための指標として「DV Authentic Ad」を提唱しています。DV Authentic Adは「アドフラウド」「ビューアビリティー」「ブランドセーフティー(安全性)&スータビリティー(適合性)」「ジオ」の4つの視点に基づき計測されます。このAuthentic Adを基本データとして、アテンションベースの分析およびパフォーマンス計測を実現するソリューションが「DV Authentic Attention」です。
DV Authentic Attentionでは、ディスプレイ広告と動画広告のアテンションを50以上のタッチポイント(測定するポイント)を使用して「エクスポージャー(露出)」と「エンゲージメント(接触)」の2つのインデックスで計測します。
エクスポージャーは、広告がユーザーの画面上でどのように表示されていたかを表す指標です。ビューアビリティーが表示時間と表示ピクセルの割合を基準としてユーザーの画面に表示されたか、されなかったかを「on/off」で測定するのに対し、エクスポージャーはさまざまな基準で「表示の度合い」を測ります。
例えば「ビューアブルタイム」は、ディスプレイ広告や動画広告が画面上でビューアブルな状態で何秒間表示されていたかを測る指標です。表示されていた時間が長いほどエクスポージャーが大きいことになります。「シェアオブスクリーン」は、スクリーン上のピクセル数のうち、どのくらいの割合を占めているかを表します。同じピクセルサイズの広告であっても、PCやタブレットに比べてスマートフォンの方がシェアオブスクリーンは大きくなるので、エクスポージャーはより大きくなります。
動画の場合はこれらに加えて、どのくらい長く再生されたかということも重要な指標になります。DoubleVerifyは動画の再生時間を25%、50%、75%、100%の4分位で計測しています。また音声が再生されていたかミュートされていたかも調べています。
エンゲージメントは、ユーザーと広告の接触を計測する指標です。広告をクリックしたのか、動画であれば再生や一時停止、スキップなどの操作やフルスクリーン表示を利用したのか、オーディオはボリュームを上げたのか下げたのかといった、広告に対する操作を分析します。また、広告に対する操作がなくても、画面のスクロールアップ/ダウンやスワイプなどの操作を測定することで、画面の前にユーザーがいることを確認できます。
DV Authentic Attentionは2023年1月、米国のメディア調査会社の認定審査を行う非営利団体であるMRC(Media Rating Council)の認定を受けました。既存のビューアビリティー基準に加えてビューアブルインプレッションの測定をパフォーマンスまで評価したのは初めてであり、第三者機関に認められたのです。
実際にDV Authentic Attentionの指標を用いて計測することで、ビューアブルな動画広告のうち音声が再生されていた割合が20%であること、さらに最後まで音声付きで再生される動画広告は12%しかないことなどが、DoubleVerifyが過去に実施した調査より分かっています。ビューアビリティーが高いからといってアテンションが高いわけではないのです。なお、これはグローバルのデータであり、日本に限れば実は音声の再生率はもっと低く、モバイルではさらに下がります。
アテンション指標を用いたキャンペーンの最適化
アテンションがリアルタイムに計測できることで、広告を出稿するWebサイトの最適化が可能になります。ビューアビリティーに加えてアテンションを計測し、よりパフォーマンスの高い配信先に出稿を集中させることで、キャンペーン全体の効率を向上させることができるからです。DoubleVerifyの分析によれば、広告が掲載されるWebサイトの多くはアテンション指標が低く、広告が十分なパフォーマンスを発揮できていません。広告主はよりアテンションの高いドメインに掲載をシフトさせる必要があります。
エクスポージャーとエンゲージメントを測定することで、キャンペーンの目的に合った最適化が可能になります。下の図の円の位置はそれぞれのWebサイトにおける広告のエクスポージャーとエンゲージメントを、円の大きさは出稿量を表しています。
ブランディング目的であればエクスポージャー(横軸)に重きを置く配分、購入や資料請求などのアクションが目的であればエンゲージメント(縦軸)に重きを置く配分にすることで、より良い成果が期待できます。
エクスポージャーとエンゲージメントの2軸で広告クリエイティブをマッピングすることも可能です。キャンペーンで使用したクリエイティブごとにエクスポージャーとエンゲージメントが測定できるので、上の図と同様にマッピングします。右上にあるクリエイティブの方がパフォーマンスは良いので、次回のキャンペーンではこのクリエイティブの割合を増やすことでより高いパフォーマンスが期待できます。また、クリエイティブごとにエクスポージャーとエンゲージメントを構成する各指標が分析できます。客観的な指標でクリエイティブを評価したデータを蓄積していくことで、今後のクリエイティブ改善の方向性も見えてきます。
DV Authentic Attentionの測定はリアルタイムに行えるので、キャンペーン期間中にパフォーマンスの高いサイトへの出稿を増やすのと同様に、パフォーマンスの高いクリエイティブの出稿を増やすことも可能です。キャンペーン期間中も最適化を行い続けることで、広告費のムダを減らし、有効に活用することができます。
AI活用でアドベリフィケーションのその先へ
リアルタイムで測定できる指標を基にした最適化を、人力で対応するのは無理があります。これからのアドベリフィケーション(広告検証)には、Always On(常時検証)の測定と最適化、出稿の自動化がセットになったソリューションへの投資が欠かせません。そこにコストをかけたとしても、それを上回るインターネット広告のムダを削減できれば投資は成功です。自動化のプログラムにAIを導入することで、コストパフォーマンスはさらに上がります。
AIといえば、最近は「ChatGPT」をはじめとする生成AIが話題になっています。生成AIの急速な普及がもっともらしい嘘をつくフェイクニュースの氾濫を招き、メディアのクオリティを低下させる懸念が高まっていることも見過ごせません。
広告主が危険なWebサイトのコンテンツの周りに広告を掲載するリスクを排除すると同時に、広告を掲載する側のメディアも、自社のコンテンツにより注意を払う必要があります。特にソーシャルメディアでは、フィードの中に表示されるユーザーコンテンツからフェイクニュースを排除することが課題となっています。XやMetaなどの大手ソーシャルメディアは、インフィード広告におけるブランドセーフティー&スータビリティーソリューションの活用を始めています。
これまで広告主の広告最適化の役割を担ってきたアドベリフィケーション企業は、インターネット広告全体のエコシステムを健全に保ち、安全な環境を整備する上で、業界の重要な役割を担う存在となりつつあるのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.