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「TBS NEWS DIG」が広告の価値を証明するために取り組んでいることブランドの安全性と適合性の可視化

広告のデジタルシフトが進む中、広告掲載面(メディア)の品質があらためて問われている。国内トップクラスのニュースサイトである「TBS NEWS DIG」が自らの価値を証明するための取り組みについて、責任者に話を聞いた。

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 デジタル広告の大きな価値とは、見せたい相手に見せたいタイミングで届けられることにある。しかし、「枠から人へ」のスローガンが独り歩きするあまり、掲載面の品質に必ずしも十分な注意が向けられてこなかったのは、近年におけるこの業界の大きな反省点と言えるだろう。

 出稿した広告に対するクリックやインプレッションなどの成果が不正に操作されていたり(アドフラウド:広告不正)、表示された広告が実際には目視できない状態にあったり(ビューアビリティー:可視性)、広告がブランドにとって好ましくないコンテンツに併載されていたり(ブランドセーフティー:安全性/ブランドスータビリティー:適合性)、広告主の悩みは尽きない。投資をムダにしないためには「透明性」が必要だ。本稿では、パブリッシャー(媒体社)側の動向の一事例として、TBSをキー局とするJNN28社の総合ニュースサイト「TBS NEWS DIG Powered by JNN(以下、TBS NEWS DIG)」における、広告の透明性に関する取り組みについて紹介する。

後発ながら日本有数のニュースサイトに急成長

 2022年4月に立ち上がったTBS NEWS DIGは、全国各地の放送局がそれぞれ独自に取材・編集した深掘り記事と最新ニュース、ユーザーの地域に合わせた防災情報などを提供している。「DIG」にはコンセプトである「深掘り」と「デジタル」の2つの意味が込められている。

 従来、テレビ局発のニュースサイトは地上波で放送したコンテンツのアーカイブ的なイメージが強かったが、TBS NEWS DIGはデジタルの特性を生かし、タイトルの付け方やコンテンツを出すタイミングなども含め、映像とテキストを組み合わせた効果的なニュースの見せ方を工夫している。立ち上げ以来順調に成長し続けており、2023年8月には月間ページビュー数が2億5000万、ユニークユーザー数が4500万に達した。

 後発ながらニュースサイトとして日本有数の媒体力を得たTBS NEWS DIGは、その社会的影響力・責任への自覚から、安全で透明性の高い広告運用環境の実現に向けて取り組んでいる。具体的には日本の媒体社として初めてDoubleVerifyの広告データ収集・分析ツール「DV Publisher Suite」を採用した。

広告の透明性とパフォーマンスの課題は同根

 DV Publisher Suiteは、広告在庫の品質や配信状況の管理、売り上げの集計、収益性分析に至るまで提供するパブリッシャー向けツール群だ。従来、手作業に頼っていたデータ収集・分析を自動化し、広告パフォーマンスをリアルタイムかつ精緻に把握する。

 DV Publisher Suite導入の狙いとして、TBS NEWS DIGのビジネスプロデューサーであるTBSテレビの石橋正人氏は「広告主や広告会社に対してビューアビリティーと安全性を保証することと、収益力強化に向けてメディアの価値を証明すること」を挙げた。

 アドフラウド対策など安全性の課題に向き合うことについて、「デジタルメディアを運営する者の責任の一つ」と語るのは、TBS・JNN NEWS DIG代表社員でTBSテレビ NEWSDIG企画開発室長の南部諒生氏だ。一方で南部氏は、「良質な広告が出ることはメディアの価値向上につながる上、掲載面に合った広告が出ることで、ユーザーにとってもストレスは少ないはず」と付け加える。

 「ユーザーに向き合うことはもちろん重要ですが、クライアントに向き合うことも重要です。両者に満足してもらうためにはメディアの価値を高め、さらにはその結果として自社の事業も成長させていく必要があります。“三方よし”の状態で成長していくことが重要」(南部氏)

 メディアの価値向上を目指すのは、現状の運用型広告の低単価という課題の裏返しでもある。数値を確認しながらPDCAサイクルを回し、既存の広告枠の可視性を高めること、さらにDoubleVerifyが持つコンテクスチュアルターゲティング機能より広告主のニーズに合ったコンテンツとのマッチングを実現することで、より高値で売れる広告商品を開発することを目指す。2024年3月に予約型広告およびPMP(プライベートマーケットプレイス:運用型広告の中でも入札資格を限定したプレミアム枠)型商品の提供を開始した。

 広告の透明性とパフォーマンス向上は目的が異なるようでいて、実は課題は同じであり、一つのツールで解決できるというのは興味深いところだ。石橋氏は「営業担当者など、私たちもそこまで豊富にリソースがあるわけではない。単一のソリューションで効果を最大化できるのも、DoubleVerifyを導入した理由の一つ」と語る。

日本のデジタル広告環境は品質向上の余地がまだ多い

 広告面の品質を誰が保証すべきかという問題は、簡単には答えにくいところがある。お金を出す広告主からすれば、広告商品を提供するパブリッシャーが責任を持って当然と思うかもしれないが、求める品質は広告主によって差がある。DoubleVerifyも、2008年の創業当初は広告主が自身で広告面の品質をコントロールするためのツールのみを提供してきた。買収したAd-Justerを基にパブリッシャー向けのソリューションとしてDV Publisher Suiteをローンチしたのは2020年のことだ。

 DoubleVerifyで事業開発の責任者を務めるエグゼクティブバイスプレジデント(ビジネス開発)のスティーブン・ウールウェイ氏は「広告主とパブリッシャー双方が透明性の高いデータを持つことで、それを基に関係者が話し合うことができる」と、それぞれのソリューションの存在意義を強調する。

 日本アドバタイザーズ協会(JAA)と日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の広告業界3団体がデジタル広告の品質を認証する第三者機関として2021年4月にJICDAQ(デジタル広告品質認証機構)を設立して3年が経過したが、石橋氏は「日本のデジタル広告環境は品質向上の余地がまだ多く残っている。これに貢献することは媒体社としての責務」と語る。DV Publisher Suiteにはさまざまな機能があるが、国内初導入ということもあり、クライアントがどこまでのデータを求めているのか、どこまで活用すべきなのか、まだ手探りの状態は続いている。それでも、日本を代表するニュースサイトの一つとしてTBS NEWS DIGが積極的に透明性にコミットするのは、デジタル広告業界全体の健全化に貢献したいという思いが強いからだ。

 「信頼が一番大事。われわれだけが出し抜こうということではなく、上質なメディアがブランド価値を提供し、業界全体で成長してくことも重要」(南部氏)

広告在庫をムダなく使うために

 TBS NEWS DIGはテレビ局発のプロのスタッフが制作するニュースサイトだ。玉石混交のソーシャルメディアと異なり、フェイクニュースのような害のあるコンテンツが紛れ込むリスクは遥かに低い。しかし、広告で訴求する商材にコンテンツの内容やトーン&マナーが合わないとか、そもそも事件や事故のニュースに自社の広告を出したくないなどの理由から、広告掲載を忌避されることもある。そうした場合でも、クライアントAには不適切なコンテンツだがBには問題ないといったことはあり得る。透明性を高めることによって、広告の在庫をより上手に振り分けられるようになれば、広告主には選択肢が広がり、市場の活性化につながることも期待できる。

 「その領域こそ、まさにわれわれが貢献できるところ。直近ではコロナ禍がそうだったように、大きな事案があると広告主や広告代理店によっては、『どんなニュースの横に広告が載るか分からないから、ニュースには一切広告を出さない方がいい』と方針を決定してしまう。われわれのツールを使えば厳格に掲載NGにしたいコンテンツは除外しつつ、予算を建設的に使うことができる」とウールウェイ氏は語る。

 ブランドを毀損するリスクを回避するのは重要だが、そのために一切の投資をやめてしまうのは本末転倒だ。パブリッシャーの収益が減るだけでなく、広告主も本来リーチできるはずだった人にできなくなる。それが成長の阻害要因になる可能性もある。健全なエコシステムを育てることは業界全体が取り組むべき喫緊の課題であり、透明性はその第一歩というわけなのだろう。


左からDoubleVerify日本代表・カントリーディレクターの武田隆氏、DoubleVerify エグゼクティブバイスプレジデントのスティーブン・ウールウェイ氏、TBS JNN NEWS DIG代表の南部諒生氏、TBS JNN NEWS DIGビジネスプロデューサーの石橋正人氏

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