DIORが本気で挑むラグジュアリー体験としてのAR:Marketing Dive
広告プラットフォームのTeadsがAR(拡張現実)とAI(人工知能)技術を応用したサービスを提供するPerfectと共同で、広告内でのバーチャル試着の仕組みを開発した。その効果は?
AR(拡張現実)のメリットの一つは、消費者がソファでくつろぎながら購入する前に試す機会を与えてくれたことだ。これは、オーディエンスにリーチするために戦略を展開しているファッション分野の多くのブランドにとって大きなセールスポイントとなっている。
それでも、Snapなどのソーシャルメディアプラットフォームによって一部で普及したこの技術は、実際の試着体験を再現するには限界があるかもしれない。色が少し違っていたり、配置が正確でなかったり、カメラの動きに追随しないことがあるかもしれない。最終的にただ正しく見えないということもあるかもしれない。このような懸念から、高級ブランドは仮想試着のためにARを活用するのをためらうかもしれないが、Christian Dior Couture(以下、DIOR)の最近の取り組みは、必ずしも後ろ向きではないことを示唆している。
ただのギミックではない
DIORは「Rose des Vents」キャンペーンの一環として、米国、韓国、香港、日本の4市場で、新しいバーチャル試着(VTO:Virtual-Try-On)広告フォーマットの実験を行った。この試着体験はPerfectとグローバルメディアプラットフォームであるTeadsのコラボレーションによって開発されたもので、消費者がパブリッシャーのWebサイトを離れることなくスマートフォンで仮想的にイヤリングを試着することを可能にした。
Teads の戦略アカウントのシニアバイスプレジデントであるラシッド・アイト・アッディ氏は「使用されていたイヤリングの小売価格は5000ドルから1万5000ドルの間であり、広告体験とユーザー体験は優れたものである必要があった」と述べている。
Kantar Profilesと共同で実施した調査の結果によると、DIORはVTOを使用することで、従来使用していた動画フォーマットと比較して広告想起が43%増加し、ブランドリンケージは62%強化された。一方、広告へのエンゲージメントも増加し、その広告経験を他者へ共有したいと回答した人が12%増加し、購入意向は36%上昇した。キャンペーンは去年の7月から8月まで実施された。
おそらく最も重要なのは、このキャンペーンがDIORのブランド認知に肯定的な影響を与えたことだろう。調査結果によれば、自分にとってブランドが価値のあるものであると認識する回答者が17%増えていることが示された。
「私たちにとって、それは最高のKPIだったと思う。彼らは何をしてもプレミアムと見られたいからだ。また、こうした取り組みは時にギミックとして見られることがあるが、それはDIORが望んでいることではない」とアイト・アディは述べた。
米国では、Teadsの最適化されたVTOアセットを活用し、DIORのブランド認知度を大幅に向上させた。VTOユーザーのエンゲージメント率は0.23%であり、ARアクティベーション後のCTR(クリック率)は11.25%を記録した。
DIORはTeadsの発表文の中で「現在は注目を集めることが最も重要視されている時代であり、私たちはTeadsの革新的なソリューションがオンラインのブランドエンゲージメントを増加させ、将来の購入を促進するのに役立つことを確信している。今回のキャンペーンのおかげで、ユーザーに没入型の体験を提供することができ、エンゲージメントとブランド認知の両面で目標を達成することができた」と、コメントを寄せている。
ラグジュアリーブランドに合ったデジタル体験を
VTOアクティベーションの成功は、「コントロール」という一つの大きな特徴に起因している。VTOがどのように動作し、見えるか、どこに現れるかといった体験のあらゆる側面をコントロールすることで、TeadsはDIORが求めるレベルのクオリティーで体験を確実に提供することができた。
例えば、Conde Nastなどの大手パブリッシャーと協力し、ユーザーがコンテンツをコントロールできないソーシャルネットワークに誘導されるのではなく、それらのパブリッシャーのサイトにとどまるようにすることで、ブランドの体験が望ましいハイエンドコンテンツに結び付けられることを保証した。
「ソーシャルプラットフォームを離れ、記事の中に質の高いジャーナリズムを取り入れることで、より質の高くグジュアリーな、消費者とのつながりが生まれる」と、Teadsのラグジュアリーヘッドであるリリー・ギボニ氏は述べている。「これは従来の広告枠で実行されるが、環境もコンテンツもキュレーションされる」(ギボニ氏)
同様に、アクティベーションのための技術を自社開発することで、Teadsは広告内のイヤリングが色や輝きだけでなくフィット感までも店頭と同じように見えるようにすることができた。結果として、イヤリングの仮想的な試着体験を実際に装着するのとできるだけ近い形にできるようになった。
「イヤリングの色をWebサイトで紹介したものと同じにすることで、シームレスな広告体験だけでなく、シームレスな消費者体験も実現できる。また、イヤリングが耳に正しく装着されているか確認することも重要だ。基本的なことのように思えるが、実際にはこれが難しい」と、ギボニ氏は述べている。
今後について、DIORとTeadsは共に楽観的な見通しを維持している。ギボニ氏は、両社が色合わせの重要性が非常に高い化粧品の世界など、他のプロジェクトにも取り組んでいるが、さらにイノベーションの余地がある可能性のある他の分野にへの応用も視野に入れている。
「私たちが考えているのは、これからどこへ向かうかということだ」とギボニ氏は言う。「フレグランスをインターネットに載せるにはどうすればいいのか。感情を呼び起こして香りを感じることができるようにするにはどうすればいいか。私はそれについて多く考える」(ギボニ氏)
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