リテールメディアの未来によぎる“GAFAがたどった道”の嫌なイメージ:Marketing Dive
WalmartはVizioの買収によりCTVの領域で競争優位性を築くことになる。一方、Vizioのデータセットに依存しているブランドは選択肢が狭まる可能性がある。
WalmartがスマートテレビメーカーVizioを23億ドルで買収する計画を発表した。これは、リテールメディアネットワークが新しい時代を迎え、コネクテッドTV(CTV)やストリーミングのようなプレミアム広告チャネルへ守備範囲を広げようとしていることを示す一つの兆候だ。
Walmartの広告事業拡大で浮上する新たな「ウォールドガーデン」への懸念
この買収は、リテールメディア大手がGoogleやMetaのような過去のデジタルプラットフォームと同じ道をたどるという懸念に信憑性を与えるかもしれない。ほんの一握りの支配的なプレーヤーが頂点に立つウォールドガーデンが確立される世界だ。これまでメディアプランニングやバイイング、測定などをVizioに依存していたブランドが近い将来、これらの分野のビジネスを行うためにWalmartに頼らなければならなくなるとするなら、選択肢が狭まるかもしれない。
「市場で唯一の独立したファーストパーティーテレビデータと測定プロバイダー」を自称するSamba TVのアシュウィン・ナビンCEOはMarketing Diveへ次のようにコメントしている。
「これはWalmartとVizioにとって前向きな動きだが、現在Vizioの生視聴率データを広告や測定スタックの一部として利用している広告主にとっては、間違いなくこのスペースを揺るがすことになるだろう」
Vizioは、スマートテレビの視聴者が何を見ているかを識別するのに役立つ自動コンテンツ認識(ACR)テクノロジーなどの分野に由来する相互運用可能なデータセットを保有し、マーケターから評価されていた。一部のメディア幹部が恐れているのは、Walmartの傘下に入ればそのデータにアクセスするのが困難になり、高額になることだ。Walmart Connectは買収が完了していないため、買収の詳細についてはコメントを控えている。
ゲームを変える買収になるか
WalmartがVizioを買収する目的は、既にカテゴリーリーダーである米国のリテールメディア部門Walmart Connectを強化するためだ。Walmart Connectは2024年度に30%の成長を遂げ、FlipKartなど大型店のグローバル広告事業の売り上げは34億ドルに達した。Vizioは独自の広告ソリューションスイートと500以上のブランドとの直接的な関係を持ち込み、Walmart Connectの規模を拡大する。VizioのPlatform Plus部門は主に広告に重点を置いており、会社全体の利益の大半を占めている。
この買収の長期的な影響はまだ見えないが、WalmartがWalmart+のeコマースプラットフォームやVizioのCTV機能など、さまざまなチャネルを連携させて効果的な広告を推進できる強固なエコシステムを構築しようとしているのは明らかだ。つまり、WalmartはAmazonに似てくる可能性がある。Amazonもまた、ストリーミングポータル「Prime Video」を通じて広告への注力を強めており、Vizio対抗のハードウェア「Fire TV」シリーズを所有している。
「WalmartによるVizioの買収は、最終的にはそれほど驚くべきことではないが、小売業とストリーミングの分野にとっては画期的なことだ」と、AppsFlyerでCTV製品ディレクターを務めるアレックス・イップ氏はメールでコメントした。「Walmartは人気のプライベートブランドTVブランドをポートフォリオに加えるだけでなく、広告やストリーミング機能を強化する膨大なファーストパーティーの消費者データへのアクセスも手に入れることになる。この買収はWalmartの収益源を多様化し、顧客ロイヤルティーを高め、Eコマースとストリーミングの分野でAmazonの優位性に挑むことになるだろう」(イップ氏)
CTVの融合
他のリテールメディアネットワークは、次の大きなチャンスとしてCTVに注目し、ファーストパーティーの買い物客データを背景により正確な広告を配信したいと考える広告主にアプローチしている。Cookieの廃止に伴いシグナルロスが激しさを増す中、こうした要求は高まり続けている。
「GoogleがサードパーティーCookieを廃止し、広告主がオーディエンスの前に立つための新たな機会を求め続ける中、デジタル広告、特にリテールメディアやCTVのような成長チャネルとの融合が見られるだろう」と、Criteo最高収益責任者のブライアン・グリーソン氏はメールで述べた。
CTVのような分野は、リテールメディアネットワークにこれまで欠けていたアッパーファネル戦略で力を発揮するチャンスを与える。Vizioの買収により、Walmart Connectは知識ギャップを早急に埋めることになる。調査会社eMarketerは、米国のCTV広告収入は今年22.4%増の301億ドルに達すると予想している。
Walmartの元幹部で、現在はMolocoでリテールメディア部門の最高営業責任者を務めるニキル・ラージ氏は、メールで次のように述べた。
「今回の動きでWalmartはCTV広告市場で強力な足場を築くことができる。また、CTV広告のバリューチェーンも崩壊し、Walmartはリテールメディアからの需要を自社の供給でまかなうことができる。Prime Videoの在庫を持つAmazonと何ら変わらない」
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