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ポストCookieの新手法を試すのは今が好機 広告主のための5つのステップ「Protected Audience API」入門

最終回となる今回は、サードパーティーCookieの廃止が広告主やパブリッシャーなどに与える影響と、Cookieレス時代に向けて今からできる対策について言及する。

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 プライバシーへの配慮から、ターゲティング広告へのサードパーティーCookie利用が廃止される動きが進んでいる。筆者の所属するRTB Houseはディープラーニングを活用したダイナミックリターゲティング広告プラットフォームを提供しているが、数年前からCookieレスの未来に備え、Googleが提唱する新技術「プライバシーサンドボックス」に関連したターゲティング技術の開発を行っている。最終回となる今回は、サードパーティーCookieの廃止が広告主やパブリッシャーなどに与える影響と、Cookieレス時代に向けて今からできる対策について言及する。

Protected Audience APIの本格テストが始まった

 世界中で厳しくなるプライバシー規制と主要ブラウザのプライバシー保護強化に応じて、GoogleもChromeなどでのサードパーティーCookieの廃止を決定し、2024年後半までの完全廃止を目指している。Cookieレスのターゲティングについて代替技術も登場しているが、プライバシー保護や効果の範囲などに課題があり、決定打に欠ける状況となっている。そこで、Googleが手掛けるサードパーティーCookieに依存しない広告手法を開発するプライバシーサンドボックスイニシアチブの動向が注目されている。

 RTB Houseは数年前からCookieレス技術に投資をしており、独自に提案した技術がプライバシーサンドボックスイニシアチブに採用された唯一の企業でもある。提案した技術は、ターゲティング手法の一つである「Protected Audience API」の重要な一部となっている。Protected Audience APIは、基本的にはユーザーのブラウザ上や安全が確保されたクラウド上で動作するため、従来のCookieベースのターゲティングと異なり、データの受け渡しによる情報の喪失がなく、より高い効果が期待される。当然、プライバシーは保った状態で動作する。

 Googleは2024年第1四半期から、サードパーティーCookieをChromeユーザーの1%に対して廃止し、同年後半には完全廃止が予定されている。RTB Houseでは2022年から世界中のパブリッシャーや広告主などと協力し、Protected Audience APIを使ったターゲティングシステムの動作テストを行ってきたが、2024年は本格的なパフォーマンステストを計画をしている。

ChromeのサードパーティーCookie廃止の影響は

 ChromeがサードパーティーCookieを廃止すると、一番影響を被るのがアドテク事業者だ。広告出稿側の自動購入プラットフォームであるDSP(Demand Side Platform)や、パブリッシャーやWebサイト運営者が広告スペースを自動販売するプラットフォームのSSP (Supply Side Platform)を運営する事業者たちで、これらのプラットフォームは、広告のリーチと効果を最適化するためにサードパーティーCookieに依存しているためである。

 そして、DSPやSSPと深く関わるパブリッシャーや広告主は、Cookieレスの環境に適応するために、どのプラットフォームを採用するかという戦略的決定を迫られる。なお、ブラウザを利用する一般のエンドユーザーにとっては、プライバシーが強化されることで特に大きな変化を感じることは、ほとんどないだろう。

広告主が取り組むべき5つのステップ

 サードパーティーCookie廃止に向けて、パブリッシャーや広告主が行うべきことを整理しておこう。

 パブリッシャーに求められるのは、SSPやDSPと協力し、Cookieレスの新しいテクノロジーをテストすることだ。効果的なマネタイズのためには、長期的な持続性とプライバシー規制などに対応する安全性、実用性を考慮して、最適な手法を選択することが重要である。SSP側もパブリッシャーのテスト参加を歓迎しているため、積極的に参加することを推奨したい。逆に、パブリッシャーが自らテストへの参加を申し出ない限り、SSPは取り組みを進めようがない。パブリッシャーは複数の新しいテクノロジーを試し、最良のソリューションを見つける必要がある。

 広告主に関しては、以下の5つのステップが考えられる。

ステップ1:サードパーティーCookie依存のマーケティングを確認

 まず、自社のデジタルマーケティングにおいてサードパーティーCookieがどのように使われているか、現状を知る必要がある。その上でサードパーティーCookieが占める割合などを把握し、これらがなくなった場合の影響を洗い出すことが、対応の第一歩である。

ステップ2:適切なCookieレス技術を調査・選定する

 Googleのプライバシーサンドボックスや、それに含まれるさまざまなAPIなど、Cookie代替技術は複数存在している。RTB Houseをはじめとする多くのテクノロジーベンダーが提案している解決策をがどのような手法なのか調査し、理解を深めることが必要である。ただ機能的であることだけではなく、プライバシー、規制の順守、さらにはユーザーエクスペリエンスの向上という観点からも評価したい。

ステップ3:選定した技術の検証を行う

 Cookie代替のターゲティング技術を選択した後は、その検証を行い、テクノロジーベンダーにフィードバックを提供する。これにより、自社にとってより良いものかどうかを判断していくことが必要である。

ステップ4:その他の技術を検証する

 プライバシーサンドボックス関連技術以外の手法も評価して、広告戦略をさらに強化できるか検証したい。例えば連載第1回「Google『プライバシーサンドボックス』は今どうなっている? ポストCookie代替案の現状を整理する」で紹介した、Webサイトのオーナーが直接収集したデータに基づく「ファーストパーティデータに基づくIDソリューション」や、ユーザーの個人データやブラウジング履歴ではなくコンテンツの内容やコンテクストに基づいて広告を配信する「コンテクスチュアルターゲティング」といった手法の活用だ。

ステップ5:信頼できるテクノロジーパートナーに相談する

 そもそも自社単独で対策を検討することが難しいこともあれば、始めてはみたものの各ステップで障壁に直面することもあるだろう。そうした場合、信頼できるアドテク関連のパートナーと一緒に進めることが望ましい。

 2024年の前半は少なくともステップ2まで進むことを目指したい。

日本企業の傾向と課題

 RTB Houseは新たなターゲティング手法として、Protected Audience APIを使ったシステムを開発し、世界中のパブリッシャーや広告主など検証を行い、その成果を披露してきた。日本企業の傾向を欧州や米国と比較したとき、いくつかの特徴を感じている。

 日本の企業は、新しい技術の概念を理解する速度が非常に早い傾向にある。欧米企業の場合は、理解を得られるまで詳細な説明を繰り返す必要がある。また、日本企業から受ける質問は広告成果のレポート機能に関するものが多いが、海外の場合は「どのような新しいことが可能になるのか」「どのような新しいソリューションを開発できるのか」という、新たな機会を求めるものが多い。日本企業は技術の理解は早いものの、どちらかというと保守的な性質を持っている印象だ。

 Cookieレスの新時代が到来しても、デジタル広告の技術は進化し続けるだろう。新しい環境で何が可能か、また他の関係者やパートナーと何を実現できるかを考える未来志向の姿勢が望ましいと考えている。従来のCookieベースの広告戦略を見直し、より新しい技術や手法に興味を持つことが重要である。

 2024年はいよいよCookieレスに突入するため、RTB Houseなどが実施するテストへの参加が望ましい。この移行期間こそ、従来の手法と新しい手法のパフォーマンスを比較する絶好の機会だ。Cookieが完全に廃止されてしまった後では、従来の技術の比較が難しくなるからだ。RTB House では、Protected Audience APIの重要な機能を提案した企業のため、Googleとは、テスト結果に基づくフィードバックができる関係を構築している。

 Google側も、市場にとってどんな機能が必要とされているかを求めている。サードパーティーCookieが廃止となるまでの時間は限られている。積極的にテストに参加し、次に何が起こるのか、そして自社のニーズが反映されるのかを確認し、必要に応じてフィードバックを提供することが、今やるべきことではないだろうか。

執筆者紹介

奥内鉄治さん

奥内鉄治

おくうち・てつじ RTB House Japan カントリーマネージャー。毎日新聞社、FOXインターナショナルチャンネルズ、Yahoo Inc.などを経て、2017年RTB Houseの日本事業に参画。20年以上デジタル広告の領域を歩む。2021年より現職。


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