花王「瞬感ミストUV」の大ヒットにつながったクリエイターマーケティング戦略:「Meta Marketing Summit Japan 2023 」レポート
テレビ主体のマーケティングからSNSへのシフトを強める花王。「SNS売れ」で大ヒット商品となった日焼け止めミストのプロモーションチームにおけるInstagram活用取り組みを紹介する。
Meta日本法人のFacebook Japanは2023年10月27日、広告主向けイベント「Meta Marketing Summit」を日本で初開催した。本稿では、花王で「ビオレUV」のブランドマネジャーを務める小林達郎氏と博報堂で花王のメディアプランニングを担当する上山修一氏をゲストに招いたセッション「好きと欲しいをつなぐ、自分ごと化プラットフォームとしてのInstagram」(モデレーターはFacebook Japan営業部長 丸山祐子氏)のハイライトを紹介する。
テレビ主体のマーケティングからSNSへのシフトを強める花王
調査会社のインテージが全国の小売店から継続的に日々の販売情報を収集する「SRI+(全国小売店パネル調査)」において、ビオレUVは3年連続で日焼け止めカテゴリーのナンバーワンの座をキープしている。中でも特に売れているのがノンガスタイプのミスト日焼け止め「アクアリッチ アクアプロテクトミスト(通称:瞬感ミストUV)」だ。2022年のテスト販売を経て2023年2月に満を持して全国発売。Instagramを中心として各種SNSで大きな話題を呼び、「日経トレンディ」の「2023年上半期ヒット大賞」に輝いている。
花王といえば日用消費財のトップ企業の一つとして、マス広告中心のキャンペーンを展開するイメージが強い。しかし、最近ではデジタルマーケティングにも注力し、マスとデジタルの割合はおおよそ半々になっているという。
「ここ数年はマスだけでは戦えなくなってきているのを実感している。そういう状況で強い危機意識を持って、デジタルにかける比率を上げていくだけでなく、そのやり方も変えていこうとしている」と小林氏は語る。
とりわけ注力しているのがSNSだ。と言っても、単に「バズる」だけでは一般消費財のビジネスを安定的に支えるに足るレシポンスにはならない。話題の種になるコンテンツは必要だが、むしろSNSに期待されるのは話題化の先にある評判形成、つまりミドルファネルの部分だ。UGC(ユーザー生成コンテンツ)を含めた第三者の商品レビューがあり、その裏付けとして、商品スペックなどブランド公式の情報を広告として出していくことが重要というわけだ。
3Sサイクルを回すということ
花王が瞬感ミストUVを2022年に一部のドラッグストアでテスト販売した際に実施した調査の結果を見ると、購入の参考にした情報の入手先として最も多かったタッチポイントは店頭で、2番目がInstagramだった。その他の調査においても、商品の特徴の認知や購入にInstagramが寄与していることが分かってきた。そうした背景があり、花王ではミドルファネルにおける重要なプラットフォームとして、本格的にInstagram活用に取り組むようになっている。
しかし、SNSにおける評判形成の重要性を理解したからといって、いつ誰がやっても適切な施策を実行できるとは限らない。花王がInstagram上のクリエイターマーケティングで成功できたのは何故なのか。小林氏は、以下の「3S」がポイントだと語る。
- Store(店頭)
- SNS
- Scene(使用場面)
SNSで感動が広がることは店頭での購入につながる。しかし、その感動の基になってくるのは、使用場面であり、ここが大切だというのが小林氏の考えだ。
「使用場面から感動体験が生まれたとき、誰かに話したくなる。もちろんその手前には店頭がある。3Sのサイクルが回り始めたときにヒットが生まれてくる。こういうことを、ビオレUVの新しいマーケティングの在り方として捉えている」(小林氏)
テレビCMやPR、 デジタルの配信、サンプリングといった従来の施策は引き続き重要だが、これらは3Sのサイクルを回すためのブースターとして機能していく。花王は事業部単位でモノ作りからSNSプロモーションまで、一貫してブランドの担当者が担うので、3Sを回すことが可能になっていると小林氏は見ている。花王では事業部のメンバーが日々SNSを観察し、そこから拾い上げた顧客の声を商品開発に活用することもあるという。
「SNS上で生まれた感動体験、もしくは悪い体験を、ものづくり側にきちんとフィードバックしていくことはすごく重要。3Sのサイクルを逆に回してリアルな体験を見ることによって、 われわれの製品の強みや弱みがはっきりと分かる」(小林氏)
メディアプランニングの考え方
UGCからインサイトを得るだけでなく、生活者の声を積極的に広告に取り入れようとしているのも花王の特徴だ。現時点では花王全体におけるMetaへの出稿のうち、約26.9%をパートナーシップ広告(旧ブランドコンテンツ広告。クリエイターの投稿をそのまま広告に利用できる広告商品)が占める。
メディアプランの考え方について、上山氏は大きく2つの方針があると語る。
「1つ目が、広告でリーチして商品を知ってもらうきっかけを作ることが大事だということ。 既存のマス広告やデジタル広告でしっかりと必要な分のリーチを担保した上で、2つ目のSNS施策を、商品認知から購入意向を上げるために展開している」(上山氏)
その中で、パートナーシップ広告を使うことで、クリエイターの投稿をフォロワーではない人にも届けることができる。購入意向を高めつつ、より幅広い層へ認知を拡大することにも寄与しているということだ。
日ごろから口コミを丁寧に観察している花王の姿勢はここでも役に立っている。フォロワー数など表面的な部分だけでなく、さまざまな投稿を見ているからこそ、どのクリエイターの投稿を広告でブーストすべきかが分かる。
新しいフォーマットをいち早く試す意義
Instagramにはさまざまな種類の広告商品がある。また、ユーザーによってコンテンツの視聴傾向も異なる。そこで、一人一人の傾向に合わせた形で広告を届けるためにさまざまなフォーマットを活用してクリエイティブを最適化させることをMetaは推奨している。具体的には、パートナーシップ広告でUGCを活用し、リールでは実際の利用場面や店頭での写真、動画を再生し、フィードではカルーセルでカタログ的に使用の感想を見せるというような使い分けが重要だということだ。企業広告においても、例えばリールに出すのであれば既存の素材の流用ではなく縦長画面に最適化したクリエイティブを制作するのが望ましい。花王はそうした考え方に理解があるため、取り組みが進むと上山氏は話す。
もっとも、さすがの花王も最初からそうだったわけではないようだ。デジタルをやっていこうと言い出した当初は、配信する素材もテレビで使っているものをほぼそのまま流用していた。ところが、レポートで見る限りリーチ数は十分なはずなのになかなか購入につながってこない。また、商品の特徴理解にもつながっていないことが各種調査結果や日々のPOSデータを追っていく中で明らかになってきた。一方で、SNSを毎日見ていると、熱量の高いリアルな生活者の発話が生まれたときにはダイレクトにPOSデータにつながってくることが度々あった。また、実際に生活者と対話する中で、売る側としてのメッセージの強い企業広告の多くがスルーされてしまうという現実も見えていた。
「そこで、情報の出し方をもう一度見直そうと考え始めた。もっと生活者視点で、 共感を得られるものを作っていかなければいけない、各SNSプラットフォームを見ているときの気持ちに寄り添った形でクリエイティブを作っていかなければいけないと考えた」と小林氏は語る。
ビッグデータとしてのInstagram
ビオレUVのInstagram活用の取り組みでは、キャンペーンの早い段階からMetaも直接関わっている。まずは花王と博報堂、Metaの3社でブリーフィングを実施し、Metaが保有するビッグデータを専用のSNS分析ツール「CrowdTangle」を使って分析。抽出したインサイトに基づいてキャンペーンをプランニングし、クリエイティブを開発して配信した結果は検証され、次の施策へフィードバックされている。
実際に行ったビッグデータ分析からは、反応の良い投稿には、実際に日焼け止めを塗布する画像が含まれているものが多いことが分かった他、広告接触後に生まれたUGCは配信面ごとに投稿の内容に異なる特徴があることを発見した。 例えばフィードでは「ビオレUV」が「良い」「使う」「購入」といったポジティブなワードと一緒に発話される傾向があり、ストーリーズに関しては、「焼ける」「外出」「海」などのワードが含まれ、外出先からの投稿が多かった。これがリールになると「ビオレUV」の登場頻度が減って「なじむ」「使える」など、実際の使用感が含まれているという傾向が見られた。
これらの結果を踏まえて広告の素材も、配信面に合わせた投稿を検討した。その結果、今回のKPIとしていた商品名に関する会話量は広告費接触者と比較して3.9倍、過去4週間における購入行動はアジアパシフィックの平均ベンチマークと比べて19倍と、好結果を残すことができた。
小林氏はキャンペーン全体を振り返り「ビオレUVに関する発話量が増えてるところがポイントだ。発話が増えてブランドと生活者との距離が縮まっていく、関係が構築されていくというのが重要。中長期的なブランドロイヤルティーにも効いてくる。ビオレUVでは来春に向けて新たな商品も準備している。今後もInstagramiを活用して、自社のビジネスはもとより生活者に貢献できるようにしていきたい」と結んだ。
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