庭山一郎氏×西内啓氏 第一人者が語る、データからB2Bのマーケティング戦略を立案するための方法:戦略&データ活用が導く成功への道
B2Bマーケティングとデータサイエンスの第一人者による夢のコラボが実現。データ駆動型B2Bマーケティングについて語った。
B2Bの大企業を中心にマーケティングのコンサルティングサービスを提供するシンフォニーマーケティングと、データサイエンスに関わるプロダクトやサービスを提供するデータビークルが2023年9月5日にウェビナーを共催した。
テーマは「マーケターが押さえるべきマーケティング戦略&データ活用〜2つの要素が導く成功への道〜」、登壇者はシンフォニーマーケティング代表取締役の庭山一郎氏と統計家でデータビークル取締役副社長CPOの西内啓氏。B2Bマーケティングとデータサイエンス、それぞれの領域を代表する論客が、実数やデータに着目したマーケティング戦略の立て方について語った。本稿ではそのハイライトを紹介する。
売り上げをロジカルに因数分解してみるということ
庭山氏は、シンフォニーマーケティングがコンサルティングの依頼を受けてB2Bのマーケティング戦略を設計する際、どのような考え方をベースにしているのかを詳しく紹介した。
戦略設計のベースとなるのは、売り上げを算出するための計算式だ。最も代表的なのは、「売り上げ=客数×客単価」だ。庭山氏はこれをB2Bビジネスに特化させた形にアレンジし、「売り上げ=案件数×決定率×案件単価」として提示している。
「案件数」はマーケティング担当者が獲得したアポイントのうち、インサイドセールス担当者が電話や訪問などでフォローを行った上で営業担当者が営業活動を進める案件として受け入れたもの。いわゆるSAL(Sales Accepted Lead)を指す。「決定率」は、受注が決定した割合。「案件単価」は、受注後1年間で獲得できる売り上げだ。
「売り上げを因数分解して、売り上げという『目的変数』に対する『説明変数』を明らかにすることで、いろいろなものが見えてきます。その一つは、各説明変数の間には相関があるということです」(庭山氏)
例えば、決定率と案件単価には、強い負の相関があると考えられる。案件単価を上げたいと考えたときに、単に値上げをしてしまうと、決定率が下がる。一方で、決定率を無理に上げようとすれば、営業担当者はディスカウントに走り、案件単価が下がっていく。
各説明変数が外部要因と相互に影響し合う関係性を持つことも軽視できない。例えば案件単価は競合製品の値付けを完全に無視して決めることは難しい。決定率も、競合他社が高い営業力を持っていれば、相対的に自社の決定率が下がってしまうことは想像に難くない。一方で案件数は、他の変数と負の相関をほとんど持っていない。外部要因の影響もほとんど受けないため、自助努力によって積み上げていくことができると庭山氏は強調する。
「加えて案件数は、これまでマーケティングをまともに実施してこなかった日本企業にとって、大きな伸びしろがあります。営業に渡すアポイントの創出や発掘を行うデマンドセンターを立ち上げてきちんと運用すれば、案件数は幾らでも上がります」(庭山氏)
案件数を目的変数と据えて因数分解すると、「案件数=マーケティングから供給されたアポイント数×案件化率」とすることができる。さらに、「マーケティングから供給されたアポイント数」を因数分解すると、「到達数×アポイント獲得率」となる。
庭山氏が「到達数」と定義するのは、電話営業をかけた際に相手が電話を取る数のことだ。到達数は「電話をかけた数×到達率」に分解できる。自社の商品やサービスにあまり興味を持っていない人に電話をかけても到達率は上がらない。そこで、「持っているリスト×スコアリング」で、自社の商品やサービスに興味関心が高い人から優先的に電話をかけることになる。
「案件化率、アポイント率、到達率、コール可能率をコントロールすれば、当たり前ですが案件数は上がります。デマンドセンターは、この4つの変数について責任を持って管理します。案件数が上がれば結果的に売り上げも上がるという構造です。マーケティング戦略を立案する上ではまず、このように売り上げをいかにロジカルに因数分解してみることを実践してほしいと思います」(庭山氏)
データドリブンな意思決定の始め方
次に登壇した西内氏は発行部数50万部超えのベストセラー書「統計学が最強の学問である」(ダイヤモンド社)の著者としても知られる。西内氏は「データからニーズを見つけ、デジタル技術をうまく活用して変革を行うことで、競争上の優位性を確立していくことができます」と語る。実際に、データドリブンに意思決定を行うことで、生産性が5〜6%変化した実証研究もあるという。
では、どこから手をつければいいのか。西内氏はまずデータ分析の設計が肝心だと語る。多くの企業はデータの活用を始めようとしたときに、とにかく社内にあるデータをかき集めようとするが、結局はそれらをどのように役立てていいのかが分からないという事態に陥りがちだからだ。
そこで西内氏は、データを収集する前に組織のトップに対してどのような課題を解決したいのか、あるいは何を成長させていきたいのかを丁寧にヒヤリングするようにしている。
「目的は、部門ごとに異なります。営業であれば、取引先からたくさんの注文を取りたいという話があるかもしれませんし、マーケティングであれば、できるだけ多くのリードを案件化したいという話があるかもしれません。ただ、そこで挙がった内容は、本当にそれが企業として求めるべきゴールなのかを精査する必要があります」(西内氏)
例えば、マーケティングはリード獲得が仕事だが、最終的に目指すのは新規案件の受注かもしれない。その場合は、どんなリードでもいいというわけではなく、「受注につながりそうなリードをどれほど獲得できるか」が重要な指標となる。あるいは受注後を見据えれば、取引が継続して会社としての利益を向上させる、つまりLTV(顧客生涯価値)がゴールとなることもあり得る。
「目的を明確にしたら、その指標として使えそうなデータを社内外から探します。マーケティングから継続金額を追うのは大変かもしれませんし、リードの獲得数は指標として短期的と言えるかもしれません。そうであれば、とりあえず受注までをMA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)をはじめとするいろいろなデータで追い、最終的な受注数や受注金額に対して、マーケティングのどの要素がどう関係しているのかを分析していきます」(西内氏)
受注数や受注金額などの結果に影響する要素が抽出できたら、どのような要素にアプローチすればゴールに近づくことができるのかを考え、施策を打っていく。施策のアクションは大きく分けて「変える」「狙う」「大丈夫にする」の3パターンがあると西内氏は言う。
「現状の条件を変えるのか、あるいは欲しい条件を狙ってリソースなどを投下していくのか、はたまた課題があるのであれば、それを解決する手段がないか。この3つのパターンを意識できると、それに関係するかもしれない要素に向き合うことで、より成果につながる施策が考えられるようになります」(西内氏)
施策が立案できたら、データを収集できる形で実行に移し、実行後にやったことをきちんと分析して評価できるようにすることもポイントだ。
「そのサイクルを回していくことが、データ活用を行う上でお薦めのプロセスです」(西内氏)
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