GMPとGCPの統合で進むファーストパーティーデータ活用:CMOのためのデジタルトレンド解説
ファーストパーティーデータによって得られる価値とはどのようなものか、ファーストパーティーデータ活用になぜGoogleクラウドプラットフォーム(GCP)を利用すべきなのか、解説します。
Chat GPTなどのAI活用が話題ですが、大きく分けて「Chat GPTのインタフェースを直接利用した汎用的なAI活用」と「Chat GPTのモデルを自社データでトレーニングした独自のAI活用」の2つの流れがあるように思います。前者はアイデアが共有されれば誰でもまねできて、たくさんの人がメリットを享受できる一方、他者との差別化ができない活用方法です。対して後者は、模倣はできても全く同じ価値を創造することは難しく、独自の価値提供ができる手法と考えられます。そして、これこそがファーストパーティーデータを活用することによって得られる価値と言えるでしょう。
筆者の経験上、デジタルマーケティングにおけるデータ活用もこれと似ているように思います。データフィード広告はファーストパーティーデータ活用の分かりやすい例です。フィードとして供給する商品情報やWebサイトからプラットフォームに送信する商品情報を最適化することで、ROAS(広告費用対効果)が2倍になった例も見てきました。昨今はそのようなファーストパーティーデータの活用を促す機能が、Googleマーケティングプラットフォーム(GMP)とGoogleクラウドプラットフォーム(GCP)のいずれにおいても増えていると感じる機会が多くなりました。
ファーストパーティーデータ活用を補助するGCP利用の効果
マーケティングへのファーストパーティーデータの活用は、直近10年間で加速度的に進んできたように思います。最も分かりやすい例はマーケティングオートメーション(MA)ツールです。有償版のGoogleアナリティクス(GA)を使っていた企業では、BigQueryに出力されたGAのデータとMAの統合開発を何年もかけて進め、ファーストパーティーデータ活用によるメリットを享受してきました。有償版のGAを契約することで、計測したユーザーの行動データをGCP内のさまざまなデータ処理機能を活用しやすくでき、結果として開発スピードを上げる効果が得られます。
昨今起きていると感じるのは、このような開発なしで可能なGMPとGCPの連携メリットが増えてきていることです。GA4からはGA無償版でも生データをBigQueryに出力可能になったことをはじめ、最近見かけた機能の例を幾つか挙げます。
- GA4の生データがGoogle BigQuery(GBQ)に出力可能
- GoogleサーチコンソールのデータがGBQに出力可能
- サーバサイドGoogleタグマネージャがApp EngineやCloud Runで利用可能
- Google Merchant CenterのデータがGoogle Big Query(GBQ)に出力可能
もちろん、自社のデータをGCPに連携させるなど、その会社でしかできないことは引き続き自社で開発に取り組む必要があります。一方、その後のマーケティング目的でのデータ利用においては、Googleがネイティブ連携や新機能を追加してきたことにより、開発やメンテナンスが不要となる効果も期待できるでしょう。
連携例:商品情報をGoogle広告に反映する
以下はGCPからGMPへの展開例です。
この例では、Google Big Query(GBQ)、Google Cloud Storage(GCS)、Google Merchant Center(GMC)、Google広告の4つのプロダクトを、開発や維持コストを最小限にしながら連携させています。
GBQを利用することで、データの整形や抽出をGCPで完結させ、そのファイル出力を行う自動更新についても基本機能で設定できるため、GBQについて多少の知識があればすぐに活用できる点がポイントです。
また、この例では商品フィードそのものを更新するのではなく、補助フィードを利用して商品フィードを拡張することを想定しています。もちろん商品フィードそのものをこの仕組みで連携することも可能ですが、これは一般的に商品フィードが以下の性質を持っているためです。
- 商品フィードはGoogle広告だけでなく、複数の広告プラットフォームで共通して利用する
- 広告プラットフォーム間で利用可能なデータは異なる部分がある
- 広告プラットフォームごとに最適化に、利用可能なフィールドが追加されていく
このような性質から、Google広告に特化した機能を利用する観点では補助フィードを使った方が、コストパフォーマンスが高くなることがあります。
例えばGBQに入っている商品の原価データをGoogle広告に取り込むとしましょう。Google広告では現在、商品別の原価情報を商品フィードに持たせることで、売り上げから原価を差し引いた売り上げ総利益(粗利)を記録させることができます。これによりGoogle広告の成果を利益貢献度合いで評価したり、利益貢献度に対する最適化を行った場合のインパクトを算出することが可能になります。
商品フィードそのものを変更して得られる効果が分からない中、Google広告のみで利用する機能を試すのみであれば、このように補助フィードのみで簡潔にデータ連携を行えるのは、コストパフォーマンスの観点から有用だと考えられます。
プラットフォームの機能に合わせることで利益を最大化できる
技術的な背景を理解している人材は必要ですが、そのような人材を張り付きで維持するコストは必要ないというのも、この仕組みで注目すべき点です。
近年の人材市場において、特にIT人材の給与水準の高まりが顕著になっていることは、経営者の皆さんであればお気付きだと思います。そうした意味で、プラットフォームに合わせたデータ活用を行うことは、長期的な固定費削減につながるでしょう。
また、専門的な領域については、スキルを持つ人材を社内に抱えておくことが必ずしも得策とは限りません。自社のエンジニアが特定のツールについて非常に高度なスキルを持っていたとしても、そのスキルを生かせるプロジェクトがなくなってしまえば、会社としてそのスキルを評価することは難しくなるでしょう。実際、たくさんのエンジニアやデータ人材を抱えていても、専門領域は専門家に頼り、自社のエンジニアには必要以上に細かな専門性を求めないという企業もあります。
このような観点でプラットフォームの利活用を進めると、トップラインを強化しつつコストも抑制できて、ファーストパーティーデータ利用の投資対効果を最大化できるでしょう。
執筆者紹介
似田貝亮介
にたがい・りょうすけ プリンシプルデータ解析エンジニア。大手企業Webサイト開発のディレクションや、解析ツール導入、ユーザー行動解析とターゲティング広告のためのデータ蓄積・連携およびプロジェクトマネジメントと実装を行う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.