富士通の「デジタルセールス」が目指すこと:富士通の「デジタルセールス」
この連載のタイトルにあるように、富士通はインサイドセールスのことを「デジタルセールス」と呼んでいる。それはなぜか。デジタルセールスは営業組織の中でどのような存在なのか。
リード獲得のための「デジタルマーケティング」は多くのB2B企業で一般的になりつつあります。しかし、セールスプロセス全体を俯瞰したとき、マーケティング部門の活動はPDCAの「P」と「D」の部分にすぎません。実際、その後工程の部分においては、片っ端から電話をかけるだけといった、アナログ的なアプローチで終わってしまっているケースもあります。「下手な鉄砲も数撃てば当たる」とばかりにお客さまの課題もBANT(予算、決裁者、ニーズ、導入時期)もお構いなく単にアポ取りにいそしんでもリードの質は上がりません。また、アナログなアプローチではコールする人個人の技量で成果にばらつきが出てしまいがちです。
そうではなく、私たちはデータドリブンで再現性と一貫性を維持しながら、確度の高い案件を生み出していきたいと考えています。そのために富士通のインサイドセールスは「デジタルセールス」を名乗っているのです。
富士通版「THE MODEL」を目指して
前回説明した通り、富士通のインサイドセールスは以下の3つの機能を担っています。
- SDR(Sales Development Representative):セミナーやWebサイトでのアクションに対してフォローコールを行う
- BDR(Business Development Representative):新規開拓のためのアウトバウンドコールを行う
- CS(Customer Success):成約済みの顧客のフォローを行う
例えばBDRなら、お客さまの情報をあらかじめ知った上でコンタクトを取ることが、その案件を高確度にすることにつながります。また、事前情報を踏まえてターゲティングし、優先度の高いところからアプローチを仕掛けていくのも大事なことです。
デジタルセールスにおいてはさまざまなツールを活用しています。ターゲティングには「FORCAS」や「SPEEDA」を使い、お客さまの行動はIntimate MergerのDMPで得られるインテントデータで感じ取り、アプローチ対象のリストは「Sansan」や「LinkedIn」「Eight」で収集します。リードの管理から育成、案件クローズまではマーケティングオートメーションツールの「Salesforce Marketing Cloud Account Engagement」(旧Pardot)と案件管理ツールの「Salesforce Sales Cloud」を連携させ、きちんと追っています。
営業組織全体の共業プロセスと言えば、ジャパン・クラウド・コンサルティング代表取締役社長の福田康隆氏の著書にもなった「THE MODEL」が有名ですが、ゆくゆくは私たちも富士通ならではの「THE MODEL」を作りたいと考えています。
私たちが目指す「THE MODEL」においては、インサイドセールスが各プロセスの軸となります。営業とマーケティングが不仲であるという悩みを抱える企業は多いですが、そこをインサイドセールスがつなぐ。つなぐためには、後工程の求めるものを皆が理解し、それを実現するために必要なおのおのの役割を決めて「握る」ことが大切です。プロセスをデジタル化することで、取り組みの進捗状況や成果がデータとして残ります。これを共通のダッシュボードで「見える化」することで、営業と同じ目線でコミュニケーションを取ることができるようになるのです。
インサイドセールスは営業の「バディ」
今でこそ社内でインサイドセールスの意義が理解されつつありますが、チーム発足当時は「電話なんかで大企業が振り向くものか」と懐疑的な目で見られることもありました。そこで、最初の3カ月は私たちのやろうとしていることを、熱意を持って社内に説明して回りました。さまざまな部門や階層、上は役員から下は担当者クラスまで、合計300回は説明の場を設けたと思います。
説明の中ではよく、インサイドセールスの役割を担当営業の「バディ」であると言いました。刑事ドラマの主人公の相棒、個性の違う凸凹コンビの片割れというイメージです。上下関係ではなく対等な立場のバディとして、インサイドセールスは営業が求めるクローズに近い質の高い案件を発掘する、顕在化したニーズだけでなく潜在ニーズも探る、業界やお客さまの声を営業に届けられる、CRMにもきちんと情報を残すといったことを話しました。また、上の階層には経営にメリットがあることを強調し、下の階層には自分たちの工数が減らせるということをメリットとして訴求しました。
同時に、社内におけるインサイドセールスの理解を深めるためのインターナルコミュニケーション活動にも注力しました。具体的には、富士通にいる8000人もの営業人員に向けて、社内報やYouTubeによる情報発信を強化し、社内勉強会なども実施しました。ときには外部メディアまでも活用し、「THE MODEL」著者の福田康隆氏と私が対談したこともありました。
こうした努力のかいもあって、まずは22の営業部でPoC(概念実証)をスタートさせることができました。せっかくインサイドセールスを立ち上げても周囲を巻き込むことができなければ何の意味もありません。私たちがPoCにこぎつけたポイントは、上の階層から説得していったことだと考えています。もちろん、役員だけ説得できれば現場はどうでもいいというわけではありません。下の階層に下りていけばいくほど「何のためにやっているのか」という根本がずれてきてしまうので、こちらはこちらで、やはり直接の説明機会を設けることが重要です。
PoCにおいては「マーケティングが持ってくるリードは役に立たない」という営業側の先入観を払拭してもらうことも一つの目標としていました。そのために大事なのは、先述したように、期待値と成果を両部門で「握る」ことです。インサイドセールスが取ってきたリードが期待値と違っていたのであれば、何が足りなかったかをフィードバックしてもらい、次回はもっと期待値に近づけるようとすることが重要です。活動状況は定例会議でも共有していますが、それ以外にも普段から密なコミュニケーションを取るようにしています。それも共通のダッシュボードやチャットなどのツールがあればこそ。こうしたことからも、インサイドセールスを実りある活動にするため、デジタルツールの活用が不可欠であることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
PoCを経て分かったこと
PoCスタート時に対象とした22の部署はトップダウンで始まりましたが、取り組みが進むうちにインサイドセールスがうまく機能しているケースとそうでもないケースの特徴が見えてきました。そうした中で「自分たちの部署でももやりたい」「推薦したい部署がある」といった声も掛かるようになり、対象部門の入れ替わりもありつつ現在は50以上の営業部と商品部門がインサイドセールスと連携しています。
インサイドセールスと特に相性がいいと感じられたのは、多くの拠点や事業部を持っている企業を相手にするケースです。同一、複数ソリューション問わず、各拠点や事業部に展開していきたいけれど営業が回り切れないという場合に、インサイドセールスと分業することで、効率的にアプローチすることができ、営業としてもメリットが出やすいことが分かりました。また、各拠点で吸い上げたニーズをその会社のトップ向けの提案に盛り込むことができるという副産物もありました。一方で、インサイドセールスと連携する必要が薄いと感じられたのは「あの会社のあの部門」といったように、固有のターゲットが定まっている場合でした。
PoCの期間中にアプローチしたのは合計600社1400部門。成果としては100件ほどの新規開拓ができ、33件が受注に至りました。中には7億円程度の大型案件が獲得できたケースや、少額ながらインサイドセールスがコンタクト発掘してからわずか3カ月で受注に至ったケースなどもあります。とある大手企業では、富士通のインサイドセールスの活動自体に興味を持っていただき、何回も勉強会を重ねた後に、もともとはコンサルティング会社に依頼していた領域を富士通に任せてもらうことができたということもありました。
また、PoCに参加した営業部にアンケートを取ったところ、95%がこの活動の継続を希望するという回答でした。特に新規案件の獲得や効率化につながったという点が評価され、期待以上だったというコメントも多く見受けられました。
これらPoCでの結果を受け、私たちの活動は本格的に展開することになります。
寄稿者紹介
友廣啓爾
ともひろ・けいじ 富士通 グローバルマーケティング本部 デジタルセールス統括部 統括部長。ベンチャー出版社や外資系IT企業にてフィールドマーケティングの経験を積む。Push/Pull問わずB2Bマーケティングの理想像を追い求め、その改革に熱意を傾け続ける。日本企業に貢献すべきと思い立ち2020年6月に富士通へ移籍。マーケティング変革や会社のDXを担当。
構成:三ツ井香菜
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