SDGsの観点で見る企業SNS投稿の好事例:SNS運用のプロが教える「SDGs×SNS時代」の心得【第4回】
SNSで情報発信をする上で忘れてならないのは他者への「思いやり」。今回はこれまで解説してきたポイントを踏まえながら、実際の企業SNS投稿における好事例を紹介します。
SDGs時代の企業SNSアカウントに求められるのは他者への「思いやり」。それを伝えつつ、この連載では投稿コンテンツを作成する上で気を付けるべきポイントを紹介してきました。今回はそれらのポイントを踏まえながら、実際の企業SNS投稿における好事例を紹介します。
好事例1. #いいふうふの日 キャンペーン
公益財団法人Marriage For All JapanのTwitterアカウントが2020年11月22日に合わせて実施した大型SNSキャンペーンです。これまで11月22日は「いい夫婦の日」とされ、男女同士での結婚を前提とした表現方法になっていましたが、これを「いいふうふの日」と表記することで、「ふうふ」にはさまざまな形があることを示しました。男女同士での「夫婦」だけでなく、「夫夫」「婦婦」など、全てのセクシュアリティの「ふうふ」へ目を向けていることが分かります。
こうした取り組みもきっかけになり、Twitterが出しているモーメントカレンダーも2021年分から「いいふうふの日」へ修正されました。これを受け、従来は毎年11月22日には各社が「#いい夫婦の日」で投稿していましたが、2021年には多くの企業が「#いいふうふの日」で投稿するようになりました。
好事例2. #スマートバレンタインでいこう
Galaxy Mobile JapanのTwitterアカウントが2021年2月のバレンタインデーシーズンに合わせて実施した投稿企画(外部リンク)です。コロナ禍ならではのバレンタインデーの風景を、漫画家・イラストレーターによるイラストで紹介しています。
従来はバレンタインデーといえば「女性が気になる男性にチョコレートを贈る日」と認識されていました。しかし近年はジェンダー平等の観点からも、その文化に疑問を覚える人が増えてきています。企業によるバレンタインデー投稿においても、「女性が男性に贈る」文脈にならないよう配慮されることが多くなっていますが、この「#スマートバレンタインでいこう」ではさらに幅広い層への「思いやり」が見られます。男性から女性にチョコレートを贈るシチュエーションだけでなく、子から親へ、仕事仲間へ、といったシチュエーションも描かれ、恋愛中の人だけでなく、さまざまなユーザーにバレンタインデーを良いものとして感じてもらえる投稿になっていました。バレンタインデーというビッグモーメントに乗りつつも、旧来の固定観念にとらわれず全ての人に「思いやり」を持った投稿事例といえます。
好事例3. 夏季にかけての社員のマスク着用について
ヤマト運輸のTwitterアカウントがコロナ禍となった2020年夏季に行った投稿です。熱中症防止のため、車内や人がいない場所では従業員がマスクを外して業務を行うことを伝え、一般消費者への了承を求めました。
SDGsで掲げられた16の目標のうち「働きがいも経済成長も」の目標に沿って、顧客や一般消費者だけでなく自社の従業員を尊重する企業姿勢がうかがえます。マスクをつけずに業務を行うのは人がいない場所のみだと告知することで、事前に不安を取り除いておくという消費者への「思いやり」も、クレームにさらされないよう従業員を守ろうとする「思いやり」も見られる事例です。この投稿には、「あれだけ動いているのにマスクをしていたら苦しいはず……」など、ヤマト運輸の姿勢に賛同するリプライが多数ついていました。
「思いやり」のキーワードを念頭に置いて投稿された事例を幾つか見てきました。これらの投稿に共通しているのは、さまざまな人がいること、さまざまな考え方があることを意識して作成されたという点でしょう。
この記事を読んでいる人の中には、すでに自社でSDGsやCSR(企業の社会的責任)へ向けた取り組みを行っている人もいるかもしれません。そうした活動をSNSでどのように発信していけば良いか、以下では事例を交えて説明します。
自社の活動をどのように発信すべきか
自社の取り組みを発信する場として、現在多く用いられているSNSはTwitterとInstagramです。この2つの媒体は毛色が大きく異なるため、SDGsやCSRなどの取り組みを紹介する際にも、それぞれ違った見せ方をした方が良いでしょう。
Twitterでは、固い文章や作り込まれた画像よりも、ライトなテキストや画像が好まれる傾向があります。そのため、SDGsに関する取り組みやSDGsの知識などを発信する際も、クイズ形式を取り入れたり、豆知識のような形で紹介したりすることで、フォロワーからの興味を引くことが可能です。
Twitterで発信する
森永製菓のTwitterアカウントではSDGsへの取り組みとして「モリナガ・サステナブル 笑顔を未来につなぐプロジェクト」を推進し、SDGsに関するクイズを投稿しています。
森永製菓のキャラクター「キョロちゃん」を用いたクリエイティブで、SDGsに関するクイズを投稿し、親しみやすい内容になっています。また、カンバセーションボタン(カンバセーショナルカード)を使うことで、1タップで簡単にクイズに答えられるような工夫もされていました。
また、多くの人に自社の取り組みを知ってもらうためには、キャンペーンを活用するのもおすすめです。キャンペーンの内容にSDGsへの取り組みを絡めることで、今までSDGsを知らなかったというユーザーにも身近に感じてもらえます。
明治のTwitterアカウントでは、3月17日の「みんなで考えるSDGsの日」に合わせてフォロー&引用ツイートキャンペーンを行いました。
引用ツイートをする際に、「#明治のチョコで森をつくろう」を付けてもらうことで、明治の取り組みを多くのユーザーに知ってもらう機会となりました。また、地球環境に優しいチョコレートである「アグロフォレストリーミルクチョコレート」を景品にすることで、商品への認知も得られたと考えられます。
Instagramで発信する
一方のInstagramは、画像や動画ありきの媒体であるため、Twitterよりもクリエイティブの世界観や見栄えが求められる傾向にあります。Instagramのハッシュタグ検索では「#SDGs」が172万9000件もあり(2022年1月27日現在)、SDGsが興味を持たれやすいコンテンツであることが分かります。
「持続可能でこころ豊かな社会の実現」を目指すセイコーエプソンは、「ツナガル/カワル」アカウント(外部リンク)を通してSDGsや社会課題に対する取り組みに加え、エプソンが生まれた長野県の魅力を発信しています。
同アカウントではInstagramで近頃よく見られる雑誌風のクリエイティブを用いて、SDGsに関する知識や活動を説明しています。Instagramならではのおしゃれなクリエイティブを使用することで、SDGsやエプソンの取り組みに興味のないユーザーにも関心を持ってもらえるような工夫が見られます。
Twitterでは「ライトさ」や「親しみやすさ」を意識したユーザーを巻き込むような投稿で、Instagramでは「画像のきれいさ」や「パッと見た時に目を引くこと」を重視した投稿で、自社の取り組みを伝えていくのが良いでしょう。
noteで発信する
その他、SDGsに関する取り組みの発信方法としてはnoteもおすすめです。筆者が所属するコムニコの親会社・ラバブルマーケティンググループでももちろんSDGsの達成に向けて取り組んでおり、その取り組み内容や過程をnote(外部リンク)で発信しています。
「バトンをつないで #SDGs Challenge」というマガジンでは、グループのメンバーがそれぞれの視点から、楽しくSDGsに取り組む方法を探り、深掘りしたことや実践したことをシェアしています。
noteで記事を公開することで、対外的な発信に役立つのはもちろん、メンバー一人一人の意識を高め、目線を合わせることにもつながりました。noteでの情報発信はTwitterやInstagramよりも一層手間や時間がかかってしまいがちですが、その分、noteでの発信自体がSDGsへの取り組み内容の一つにもなり得るため、「自社で何か取り組みたいけどまず何をしたら良いか分からない……」という方へもおすすめです。
4つの心構えを大切に
以上、全4回にわたり、実際の投稿事例を紹介しながら、SDGs時代のSNSコンテンツ作成について説明してきました。何度も述べてきたことの繰り返しにはなりますが、どんな媒体でどんな内容を投稿にするにしても、大切なのは「思いやり」。炎上にただおびえるよりも、「このコンテンツを投稿することで、傷つく誰かがいないだろうか?」と常に考えながらコンテンツを作成することが重要です。
SNSアカウントの「中の人」を担当している方は特に、以下の心構えを忘れないようにしてください。
- 日々のインプットを大切にするだけではなく、常に自分の知識・常識を疑いましょう。そのうえでさらに、作ったコンテンツは一晩寝かせることが大切です。
- コンテンツ作成から投稿に至るまでの工程を1人で行わずに、できる限り第三者の視点を取り入れましょう。幅広い属性の社員で集まってコンテンツを考えられるとより良いです。
- 男女の生き方やジェンダーに関わる商材、コンテンツを扱う際は、発信の仕方に一層気をつけましょう。
- SNS投稿管理ツールなど、便利なツールを積極的に活用しましょう。
どんなに優秀な方でも、一人でできることにはどうしても限界があります。そのため、サステナブルなSNS運用をするには、同僚や上司、代理店等の外部パートナー、ツールなどを頼ることも大切です。他者への「思いやり」はもちろん、自身への「思いやり」も忘れないようにしてくださいね。
執筆者紹介
谷口美希
たにぐち・みき 早稲田大学教育学部卒。SBIホールディングスにてマーケティング業務などに従事した後、2019年にコムニコ入社。コンテンツクリエイターとして、多種多様な企業公式アカウントのコンテンツ作成、運用支援を行う。
この連載について
2015年の国連サミットで採択されて以来、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」という言葉をさまざまな場所で目にするようになりました。SDGsへ本格的に取り組む企業も増えてきており、今後も社会の課題と自社商品などを関連付けてメッセージを発信する機会は増えてくるものと思われます。この連載では、メッセージ発信の場となり得るSNSの運用について、SDGsの観点から留意すべきポイントを整理します。
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