BAKE創業者の新たな挑戦「CHEESE WONDER」 酪農から始まる“発明的チーズケーキ”作りの舞台裏:ダイレクトな人々 第9回(1/2 ページ)
話題のD2Cブランドと、そのオーナーの思想について考察するこの連載。第9回はチーズケーキブランド「CHEESE WONDER」のオーナーである長沼真太郎さんに取材しました。
長沼真太郎さんは2013年にBAKEを創業し、焼き立てチーズタルト「BAKE CHEESE TART」など大人気のスイーツブランドを続々と生み出して注目された気鋭の起業家だ。
今回は、その長沼さんが新たに手掛けるオンラインショップ販売限定のチーズケーキブランド「CHEESE WONDER」と同ブランドを展開する農業生産法人ユートピアアグリカルチャー(以下、UA)を取り上げる。
人気スイーツの仕掛け人はなぜ「放牧酪農」にたどり着いたのか
北海道の洋菓子メーカーきのとや創業者の家に生まれた長沼さんは、幼い頃からおいしい洋菓子に親しんで育った。大学卒業後、大手総合商社勤務をへて立ち上げたBAKEで掲げたビジョンは「お菓子を進化させる」というものだ。よりおいしく満足度の高いお菓子の追求は、上場に伴いBAKEの経営から離れてからも続いている。
長沼さんは2018年にBAKEを退社して渡米。これまでやりたくてもできなかった原材料の工程からのお菓子作りに挑むため、酪農について学ぶのが目的だった。スタンフォード大学客員研究員として過ごした1年間では、培養肉や植物肉、植物性乳製品などAgriTech(農業テクノロジー)の最前線にいる人々と交流する機会も得た。2019年末に帰国すると、きのとやに合流。グループ会社であるUAの代表取締役に就任した。
UAでは80頭もの牛を放牧している。その生乳はCHEESE WONDERのチーズケーキの原料となる。自由に動き回る健康的な牛からしぼった牛乳は味わいが格別だ。牛乳のおいしさはチーズケーキのおいしさに直結する。
放牧酪農で生産された牛乳を使ったお菓子作りは、長沼さんが長年やりたかったことだ。日本の酪農は、牛をチェーンやロープなどでつなぎ止めて飼う牛舎式が主流で、放牧式は採算の観点から取り組む人が少ない。さらには流通の仕組み上、複数の酪農家が作った品質の異なる牛乳が混ぜられて出荷されたものしか市場には出回らない。放牧酪農の牛乳を安定的に入手するには、自前で生産するしかないと考えた長沼さんは、北大との共同研究で、それに取り組むことになった。牧場がお菓子を作って売ることはよくあるが、お菓子メーカーが牧場運営に参入するのは非常に珍しいケースだ。
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