あらゆるステークホルダーの「ウェルビーイング」を高めるためのトランスフォーメーション:幸福度マーケティングのすすめ(1/2 ページ)
前回は、世の中やマーケティングのトレンドに鑑みたときに、「幸福度」が新時代のマーケティングコンセプトになり得ることや、幸福度マーケティングの概要を説明した。今回は、幸福度マーケティングの各ステップの内容を詳述する。
PwCコンサルティングのデータドリブンマーケティングチームは、日本における幸福学研究の第一人者である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)と協業し、「幸福度マーケティング」に関するコンサルティングサービスを提供している。同サービスでは企業の世界観・価値観を「幸福×X」と掛け算で定義した上で、さまざまな分析を通じて顧客の幸福度や財務指標との関係性を明らかにする。その分析結果を踏まえて、マーケティング活動に組み込むためのKPI管理の仕組みを作り、施策に落とし込むというアプローチを取る。
「幸福×X」の掛け算による独自の世界観
まず初めに、コンセプトワードを定義することが必要だ。これが後々の世界観・価値観や施策設計、顧客の幸福度・財務メカニズムの分析に対して非常に重要なインプットとなる。コンセプトワードには例えば、「熱狂」「かわいい」「笑い」「安心」などが想定され、必ずしも「幸福×X」の1つの掛け算だけでなく、「幸福×X×X×……」という複数の掛け算で表すこともできる。
ここで重要なことは、そのコンセプトワードが「企業や商材・サービス」の世界観を適切に表し、企業の競争優位・独自性につながるかどうかという、非常に戦略的でコンセプチュアルな問いである。
自社の強みやポジショニングをロジカルに分析・把握するだけでなく、クリエイティブな観点で、スッと腹落ちするコンセプトワードを紡ぎ出すことが肝要なのだ。その際に、アカデミックな領域での先行研究に目を通すことは有効なアプローチだ。
例えば「かわいい」は心理学や行動科学の領域を中心に研究が進んでいる。最も有名な知見は「ベビースキーマ」というもので、人間や動物の赤ちゃんに似たような身体的特徴(体に対して頭が大きいなど)を持つ対象に対して人は「かわいい」と思うという内容だ。
一方で「キモかわいい」のような、ネガティブな要素が加わった(でも全体としてはやはりポジティブな評価である)複雑な「かわいい」もある。われわれが日本語で発する「かわいい」はこのように言葉の意味が広くて文脈依存的でもある。他言語で「かわいい」に正確に対応する言葉はない(ゆえに世界で日本独自概念としての「Kawaii」が広まっている)。つまり、同じ「かわいい」でもどんな「かわいい」をコンセプトワードにするかを精緻に描写することは、それだけでも非常に奥深い作業なのだ。
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