ベースフード橋本 舜氏×Minimal山下貴嗣氏×ハヤカワ五味氏がD2Cの可能性を語る:CXが拡張するD2Cの可能性(前編)(1/2 ページ)
スタートアップ周辺で注目を集める3社の創業者による「CXが拡張するD2Cの可能性」についてのディスカッション。
1食で1日に必要な量の3分の1の栄養素を取ることができる生パスタ「BASE PASTA」を開発して話題を呼ぶベースフード代表取締役社長の橋本 舜氏。カカオ豆から作る本格的なチョコレートの製造スタイル「ビーントゥーバー」の先駆けとなったブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」を立ち上げたβace代表取締役CEOの山下貴嗣氏。胸が小さい人向けランジェリーブランド「feast」などを手掛けるウツワ代表取締役でデザイナーのハヤカワ五味氏。いずれも気鋭の若手起業家として注目される3人に共通するのは、商品の製造から販売までを垂直統合したD2C(Direct to Consumer)のビジネスモデルを実践している点だ。
3人はなぜD2Cという形式を選んだのか。そして、事業成功を支えたCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)とはどのようなものなのか。本稿では、プレイドが2019年4月17日に開催したイベント「CX DIVE 2019」におけるパネルディスカッションのハイライトを紹介する。
D2Cしか選択肢がなかった
橋本氏は新卒でDeNAに入社し、オンラインゲームのプロデューサーや駐車場シェアリングサービス、自動運転移動サービスなどの新規事業を立ち上げた経歴を持つ。2016年4月にベースフードを設立したきっかけは、栄養バランスの取れた食生活を送れていなかった自分自身の課題解決のため。そして、主食だけで十分な栄養を摂取できるように、しかも食べておいしいものを日本から世界に発信したいという思いからだった。
今でこそ広く認知され売れ行き好調のBASE PASTAだが、完成した当初は行く先々で「それ売れるんですか?」と突き放され、販売チャネルが見つからなかった。橋本氏は当時を振り返り「結局自分たちで売るしか選択肢がなく、仕方なしにD2Cを始めた。いわば始まりは『しゃーなしD2C』」と語る。
しかし今、時代がベースフードに追い付いてきた。橋本氏は「バイヤーにモノを売らなければならないメーカーの場合は自分の動きが規定されてしまう。D2Cはダイレクトに顧客の声が聞けて、上流から下流まで自分たちでやりたい放題、自由に変えられる。顧客の声に応えて最適化を繰り返すうちに独自のバリューチェーンができる」と考えている。
D2C×リアル店舗
D2Cの販売チャネルは一般的にデジタルが中心と考えられている。そのため、もともと店舗販売のみでMinimalをスタートさせた山下氏には、自分たちのビジネスがD2Cに位置付けられるという自覚がなかった。しかし、店舗の奥でチョコレートを作って製造スタッフも接客するMinimalの業態は、実はD2Cそのものであることに気付いた。
「お客さんの反応を見て、すぐに商品に反映できる。商品の価値やストーリーを伝えるところまで自分たちで自由にできるので、どういう順番で何を伝えるかまで綿密に考えている」と山下氏は語る。
山下氏は組織人事コンサルタントをへて30歳のときにMinimalを立ち上げた。チョコレート市場にイノベーションを起こすべくカカオ産地に自ら足を運び、農家とも協力しながら品質改善に取り組んだ。そして設立3年で、世界最高峰のチョコレート国際品評会において部門別最高金賞を受賞した。日本ブランド初の快挙だった。Minimalが短期間で高い商品力を備えることができたのは、顧客と近い距離でモノ作りができているおかげだと、山下氏は店舗型D2Cの意義を強調する。
Minimalは店舗運営におけるKPI(重要業績評価指標)として、試食の回数と滞在時間を見ている。できるだけ多くの種類を試食してもらい、1分でも長く店に滞在してもらうことを目指しているのだ。
「お客さんと試食を通じてコミュニケーションが取れる。謝礼を払ってグループインタビューをやって分析して初めてできるようなことを、リアル店舗で実現している。『おいしいです』と言いながらお客さんの顔が曇っているのも見える。高速でPDCAを回すのに店舗はとても都合がいい」と山下氏は語る。
D2Cの最初の一手はモノを作ることとキャッチーに伝えること
ベースフードの「世界初の完全栄養食パスタ」にしろMinimalの「チョコレートを、新しくする」にしろ、まずは圧倒的にとがったプロダクトを作って、それを欲している消費者に刺さりやすい鮮明な言葉で伝えている。そこはD2Cの鉄則と言えそうだ。学生起業家として注目されたハヤカワ氏も同じことを実感している。
課題解決型アパレルブランドとしてウツワを運営するハヤカワ氏がfeastを立ち上げたのは大学生のときだ。あるときTwitterで「自分のサイズに合ったブラジャーがない」とつぶやいたところ、同じ悩みを抱える女性から反響があった。そこで商品サンプルを作り、「胸が大きい人は下着が選べるのに小さい人は選べないのはずるい」という趣旨のコピーを添えて写真をツイートすると大きな話題を呼んだ。そして事業化がスタートした。最初の商品にはわずか1時間で数百着もの注文が入り、そこから工場を探してどうにか納品にこぎ着けた。
「胸が小さい人の下着」という、これまであまり表立って語られてこなかったが確実に存在するペイン(悩み)を前面に打ち出したコピーは、SNSと相性が良かった。コピーを目にした人はそれぞれの思いを乗せて拡散してくれた。メッセージ性の強い商品は、勝手に語りたくなるものだ。
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