ネスレ日本のCMOが語る「なぜWebのショートフィルムに注力するのか」:テレビCMではできないこと(1/2 ページ)
ブロードバンドインターネット黎明期から動画コンテンツのマーケティング活用を実践していたネスレ日本。ブランドがエンタテイメントに投資する意義とは何か。同社幹部に聞いた。
米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」は2018年6月13日、同映画祭の一部門で企業・ブランドが提供するブランドムービーの最高峰を表彰する「Branded Shorts」の授賞式を開催した(関連記事:「黒木 瞳さん、EXILE TAKAHIROさんも登場 『Branded Shorts 2018』開催」)。
ネスレ日本は同イベントを支援し、自社においてもデジタルチャネルを前提にしたショートフィルム制作に取り組んでいる。初期の代表例は2003年に「キットカット」日本発売30周年を記念して制作した『花とアリス』で、岩井俊二監督による3章4部構成の短編がWebサイトに公開された。この作品はその後劇場用長編版も制作されている。
2013年には、ネスレ日本創業100周年を記念して「ネスレシアター」をYouTube上に開設した。ここでは11人の監督が作成した11作品を公開し、半年で1000万ほどの視聴があった。現時点でネスレシアターにリストアップされているのは40作品。トータルの視聴数は4000万を超える。
ネスレ日本はなぜショートフィルムに注力するのか。その背景とショートフィルムに期待する役割などについて、ネスレ日本専務執行役員兼チーフ・マーケティング・オフィサーの石橋昌文氏に聞いた。
誰もが知っている商品のテレビCMを打つ意味はない
――食品メーカーであるネスレ日本がショートフィルムを本格的に作るに至ったいきさつを教えてください。
石橋 消費者コミュニケーションを展開する場として、いわゆるトリプルメディア(オウンドメディア、ペイドメディア、アーンドメディア)をどう組み合わせていくか、ネスレ日本ではずいぶん前から試行錯誤して、徐々にオウンドメディアとアーンドメディアの比重を高めるデジタルシフトの流れを作ってきました。本格的なオウンドメディアとしては「ネスレアミューズ」を2010年秋に立ち上げ、EC機能を持たせるとともに、それまで30以上あったブランドサイトを集約し、全ブランドのコンテンツを入れました。ここをコミュニケーションハブとし、集客を見込めるエンタテインメントコンテンツの1つとして、『花とアリス』で実績のあったショートフィルム、当社で「コンセプトシネマ」と呼んでいるコンテンツがスタートしました。
――テレビCMで認知を拡大する従来のマスマーケティングからデジタルに軸足を移す理由とは何でしょうか。
石橋 コーヒーを飲む人、チョコを食べる人で、当社の主力商品である「ネスカフェ」や「キットカット」を消費した経験のない、その名前を知らないという人はほとんどいないでしょう。認知はほぼ100%といっていいと思います。つまり、従来のテレビCMで認知を広げる必要は薄れているわけです。
――一方で、競合ひしめく中で、ネスレブランドが消費者に選ばれ続ける必要はあるわけですよね。
石橋 おっしゃる通りです。そして、そのためにはブランドと消費者とのエンゲージメントを高めることが課題になります。しかし、これはテレビCMの15秒や30秒のコンテンツだけでは難しい。そこで、エンタテインメントとして一流の作品を一流の監督に作っていただき、その中でブランドを深く理解していただくという手法を選択しました。
――ブランド主導のショートフィルムに期待される役割とは結局のところ何でしょう。商品の露出を目的にした昔ながらのプロダクトプレースメント(PP)ということになるのでしょうか。
石橋 作品の中にただプロダクトが映り込んでいたとしても、そこにエモーショナルなものが何もなければ、意味はありません。でも例えば、受験勉強中にお母さんがキットカットとコーヒーを差し入れてくれて、そこでふと子どもの表情がやわらぐといったシーンがあれば、ブランドの持つベネフィットが伝えられます。それをプロの映画監督に、自然な形で表現してもらうことが大事だと考えています。
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