誤解されたCPA――Web広告とKPI その1:【連載】良いKPI悪いKPI 第4回(2/2 ページ)
Web広告のKPIをどう設計するかは多くの企業の重要課題。今回はCPAの正しい考え方について解説します。
正しいCPA
CPAの正しい定義は以下のようなものです。
CPA=CPC÷CVR
CPCはコスト/クリック数、CVRはCV数/クリック数なので、分母を打ち消すと、先に上げた式(コスト÷CV)と等しくなります。先ほどの図で見ると、CPAは以下のKPIに分解できます。
CPAを単に「コスト」と「CV数」で捉えると、何がいけないのかを説明します。
「CV数を増やす」「コストを減らす」は、ビジネス上の命題です。しかし、ただ「コストを下げろ」「CV数上げろ」と上司に求められても、具体的なアクションはなかなか生まれてきません。
一方、CPAをCPCとCVRから成り立つ要素だと捉えると、2つの手段が見えてきます。
- CVRを上げる → CVRの高いセグメントへ配信する、LP(ランディングページ)の精度を上げる
- CPCを下げる → CPCの低いセグメントへ配信する、品質スコアを上げる
キャンペーン>広告>キーワードとドリルダウンしながらCVRとCPCを見ていくと、CPAが下がらないのが「ターゲティング」の問題なのか、「効率化や他社との競争」の問題なのかが見えてきます。
クリック率なども重要そうに見えますが、CPC型の広告配信の際は極論をすると実はさほど重要とはいえません(CPCを下げるための手段として重要ではありますが、あくまでもCPCに対する二次的なパラメーターです)
Web広告の役割に合わせたKGI設計
前項でCPAをターゲットとしたKPIのブレークダウンの仕方について触れましたが、「何をCVとして」Web広告を配信すべきかという、そもそもの問題がまだ解決していません。
Web広告のKGIについて触れる前に、ここで「Webサイトに求められるマーケティング機能」について考えてみましょう。
マーケティングの4Pと呼ばれる考え方があります。顧客に商品やサービスを届けるマーケティング全体を「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(プロモーション)」という4つの要素に分ける考え方です。
製品とプロモーションは、ユーザーの「気持ち、本能」に対するマーケティングであり、いかにユーザーに「欲しい」という気持ちを湧き起こすかが求められます。
一方、価格と流通は「理性」に対するマーケティングで、その製品を欲しいと思ったユーザーを理性でも納得させ、スムーズに具体的な購買行動を起こさせるために必要な要素です。
WebサイトやWeb広告は、このマーケティングの4Pの中で「Promotion(プロモーション)」と同時に、「Place(流通)」の役割も担うという特徴があります。
例えば、リスティング広告で考えてみると、ECサイトにおけるブランドワードでの出稿は、既に商品を認知してその商品の購入までを届ける流通としての機能を主に果たしているといえます。
一方、非ブランドワードでの出稿だと、何を買うか明確に決めていないユーザーに対してWebサイトへ誘導し、商品の魅力を訴求してほしいと思わせるプロモーションとしての機能です。
Webにおいてこれら2つの要素は明確に分けられるものではありません。現実的には2つの要素が入り交じった状態であること、2つの側面があるというポイントを押さえることが重要です。
例えば、リスティング広告における指名検索のCPAと、一般ワードでのCPAとでは、コスト効率が示している役割が異なるといえます。
2種類のWebマーケティングのゴールとKPI設計
Web広告を配信する際の目的は、大きく刈り取り型のキャンペーンと認知型のキャンペーンに分かれます。刈り取り型のキャンペーンは、Web上で明確なCVと呼べるポイントがある、「ECサイト」「会員登録サイト」「問い合わせサイト」などにおけるCV数を増やすことを目的としたキャンペーンです。認知型のキャンペーンは、いわゆるマス広告で行っていたような、「認知」「ブランディング」を目的としたキャンペーンです。
1. 刈り取り型キャンペーンのKPI
刈り取り型のキャンペーンにおけるKPIは、「CPA」「ROAS」で見ることが一般的です。Web広告に対する投資の考え方は大きく以下の2つがあります。
- 予算額が決まっていて、その予算内でCV数を最大化するマネジメント
- ターゲットとする獲得効率(CPA/ROAS)が決まっていて、そのターゲット内で成果数を最大化するマネジメント
どちらもCPA/ROAS をターゲットとしているという意味では同じようですが、可変パラメーターが「獲得効率」なのか「予算総額」なのかが異なります。
想定のCPAで広告運用ができない場合、「予算を余らせることを良しとするか」「獲得効率が悪くとも1件でも多くの成果を獲得するため予算を使い切るべきか」と、対応が異なってきます。
両者の違いは決裁権の範囲や企業スタイルに拠るところが大きいのですが、事業構造が仕入れと販売を主として構成され、変動費をメインに事業採算を判断できるケースでは2のパターンで、人員稼働や中古買い取りなど、WebビジネスにおけるKGIに固定費やWeb外の影響が大きい場合は1の判断基準でマネジメントを行うケースが多いのです。
また、化粧品のようにリピート性の高い商材については、単純な「CV」ではなく、初回購入かリピート購入かといった観点も重要となってきます。「目標CPAは2000円」と把握するだけでなく、リピート率とLTV(顧客生涯価値)とを踏まえ初回購入に対しては目標CPA3000円、リピート購入に対しては目標CPA1500円といったKPI設計が有効となるケースもあります。
2. 認知型キャンペーンのKPI
マス広告は配信面そのもので訴求します。また、ターゲティングが主に「場所(地域/番組/紙面)」という切り口だけなので、多くのケースではGRP(のべ視聴率)や発行部数など「どれだけのターゲットに届くか(リーチ数)」だけがKPIとなっています。その流れを受け、Web上での認知型のキャンペーンも、予算当たりのリーチ数(PVやUU)をKPIとして広告投資を行うことが多いように見受けられますが、ここには落とし穴があります。
プレースメントやキーワード、ユーザーターゲティングなどさまざまな切り口でセグメントを分け、入札競争により配信するWeb広告の場合、固定された予算でより多くのPVやUUを獲得(≒低いクリック単価で配信)しようと最適化すると、ターゲティングされてもいなければ視認性やブランド価値も低い配信面で露出されることになります。こうした広告は、果たしてブランド形成に貢献しているといえるのでしょうか。
欧米で大手ブランドがYouTube広告からの撤退を表明したニュースは記憶に新しいところですが、こういったことが起こるのは、やみくもに「リーチ(再生数)」を最大化しようとするからです。この問題では反道徳的な動画での再生が論点に上げられていましたが、そもそも通常の動画における広告配信だったとしても、動画視聴という娯楽の時間を幾度となく妨げる広告動画の視聴が本当にブランディングに貢献するのかは疑問です。
日々目にする膨大なバナー広告群に対して好印象を持つ人がどの程度いるでしょうか。テレビなど既存メディアのやり方に倣って形成されてきたKPIを、そのままWebに持ち込むことには、このような落とし穴があるのです。
Webにおけるブランド認知型広告のKPIを考える際は、「Webでブランド形成が行われた」際にどういうことが起こるのかを見極め、それをKPIにすることが重要です。
広告をクリックしたユーザーが遷移先のLPをスクロールもせずに離脱しているのでは、ブランド形成できているとはいえません。このような場合には、ページの構成に合わせて、
- 直帰せずに複数ページを閲覧した「非直帰セッション」
- 「製品ページ閲覧セッション」
- ページ下部まで閲覧した「熟読セッション」(Google アナリティクスなどのスクロールイベントを用いて計測)
- ページ内動画再生数
などをKPIに広告配信の最適化を行うことが1つの有効な手段です。
KPIを上手に設計すると、その数字の最適化を回せば後は勝手にビジネスのゴールの方向へと導いてくれます。ズレたKPIにより空回りしてもダメ、複雑過ぎるKPIにしてPDCAが回せなくなってもダメなので、なかなか簡単ではありませんが、バランスを適切に見極めて判断することが重要です。
寄稿者紹介
中村研太
プリンシプル 常務取締役 COO。2008年京都大学理学部卒業。
人材企業にてインハウスマーケターとしてSEOなどでWebサイトパフォーマンス向上の実績を残す。Webマーケティングのフリーコンサルタントとして独立後、アクセス解析を軸にリスティング広告、SEO、GTM導入などを支援するWebコンサルティング会社のプリンシプルに参画。ユーザー視点のデジタルマーケティング戦略立案とGoogleの特許論文の分析などを基にしたテクニカルSEOを得意とする。当連載と関連したセミナーも多く実施している。
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