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第15回 Social CRM最前線――海外事例に学ぶカスタマー・エンゲージメント【連載】海外事例に学ぶマーケティングイノベーション(2/5 ページ)

これまで2回に渡り、ソーシャルメディアのマーケティング活用をSocial CRMという観点から考察してきた。今回はそんなSocial CRMの実際の先進事例をいくつか紹介する。キーワードは「カスタマー・エンゲージメント」である。

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需要が発生する予兆を掴むHuggies 

 商品の企画/製造、流通/販売などといった一連のバリューチェーンの中で、小売店が存在感を増している。店舗の大型化やチェーン化に伴い、小売業に利益が集中し、価格設定の主導権もシフトしている。

 物が不足していた時代には、メーカー側に価格決定権があったが、物が溢れる現在は、強力なブランド力を持つ製品以外、価格決定権はもはやメーカー側にはない。コモディティ化しているカテゴリーでは、小売業が仕入時のブランドの選択権や店舗での棚割りの決定権を持ち、メーカーは小売業からの価格要求に従わざるを得ない。

 メーカーの利益率が減少傾向にあるため、需要が顕在化し始めているが、まだ競合がいない時期にしっかりと消費者をつかめたら、あるいは消費者が店頭の棚に立つ前に自社ブランドの購入を決めていてくれたら、と願うメーカーやブランドは少なくないだろう。消費者が、陳列場所の優劣にかかわらず探してでも買ってくれる、もしくは、小売店へ取扱いのリクエストを行ってくれれば、バリューチェーン内でのパワーシフトが起き、メーカーの利益率も改善されるはずだ。オムツのブランドであるHuggiesもそう願うブランドの1つだ。

 子供が生まれる前の母親に対してもブランディングを行った上、出産直後の母親に自社ブランド製品を試用してもらい、納得してもらえれば、オムツを買いに行った店舗の棚で、どのオムツブランドにするかで悩む確率は下がるはずである。それは、店舗棚での他競合ブランドとの戦いの回避を意味する。

 そのためには、子供が生まれる前の母親にいかにしてブランドメッセージを届けるかが勝負だ。Huggiesは、「ベイビーシャワー」というイベントに注目した。

 米国には新生児を祝う風習「ベイビーシャワー」がある。言葉通り、シャワーのごとく、両親、親戚、友人、会社の同僚などありとあらゆる関係者が、育児に必要な用具をプレゼントする風習である。この風習で特記すべき点は、合理的な考えに基づく需要と供給のマッチングシステムだ。プレゼントの重複を避け、バランスよく提供するために、贈与者と受領者の両者は、可能な限り意見交換をして両者の喜びを最大化する。

 Huggiesはこのベイビーシャワーで、自社ブランドが選ばれることをマーケティングの目標とした。産後間もなく、買い物に出ることもままならない母親にHuggiesのオムツが手渡されれば、製品を試用し、その価値を実感してもらえるはずである。さらに、365日24時間つながる仕組み作りを構築すれば、ベイビーシャワー後も、育児ママへの強力なサポーターとしてのHuggiesのブランディングが可能であり、店頭棚での競争から一歩抜き出る確率も高くなる。そこで、Huggiesは3つのソーシャルメディア(Punchbowl.com、Pinterest、Facebook)を組み合せることとした。

 中心的役割を果たしたソーシャルメディアは、パーティーの企画からアフターフォローまで、一部始終を支援するサービス「Punchbowl.com」だ。日本で言うところの幹事さん向けのオンラインサービスというところであろうか。2007年に立ち上がったこのサービスは、2010年10月には登録ユーザー数100万を獲得し、現在も確実な成長を遂げている。

 Huggies は、ターゲットとなる母親や友人が、ベイビーシャワー・パーティーの開催の連絡プラットフォームとして、Punchbowl.comを利用していることに注目した。

 Punchbowlの際立っている特徴は、パーティーへの招待Eメールのデザイン性の豊かさだ。グリーティングカード文化が浸透している欧米において、デザイン性、カスタマイズしやすい操作性に優れたこのサービスは、人々のパーティーシーンで幅広く、そして深く浸透してきた。Huggiesは、Punchbowlのサイトのトップ画面に広告を展開し、ランディングページには、”Hoggies Baby Shower Planner”を展開した。

 上記がそのプランニング・ツールのトップ画面である。

 このサイトは、ソーシャルメディアの1つであるPinterestをエンジンとして展開している。自社サイトのコンテンツ・ホスティング機能とソーシャルメディアのサイトを活用する形だ。それにより、ホスティングの制作/運営費用は大幅に削減できると同時に、それ以上に、Pinterestからのアクセスも見込めると予想される。

 話をインフラの話から、デザイン性、優れた操作性に優れたサービスに戻そう。アメリカでは、新生児祝いのアイテムは、大体決まっている。よって、母親の関心は何を選ぶかというより、どういうデザインで統一するか、という点に意識が集中する場合が多い。そこで、Hoggiesはベイビーシャワーのアイテム選びを、デザインで選べるようにした。 

 例えば、レモンをモチーフにしたデザインを選ぶと、黄色で統一されたアイテムが、ハートを選ぶとハートをモチーフとした赤やピンクのベイビーシャワーアイテムが表示される。こうした世界観の提案は、出産を控え、新しい生命への期待に高揚しながら、育児グッズを自分好みに、センス良く揃えたいという母親のインサイトに、大きく響く。

 このサイトの価値は世界観の提案だけでなく、ベイビーシャワーに参加する親族、友人とも共有できる点にもある。下記は、受信メールをクリックした後に、ランディングページ上部に表示される広告バナーだ。

 Punchbowlパーティ招待サービスを利用することで、新生児を迎える母親から友人に、幹事から関係者に、ベイビーシャワーの案内Eメールが配信できるだけでなく、新生児を迎える母親の好みの世界観までをも伝える事ができるのだ。受け取った友人たちは、ベイビーシャワーの日取りを確認すると同時に、紹介されている世界観に沿ったアイテムを、共同もしくは分担して購入することができる。プレゼントされる側、贈る側にとっても便利な仕組みに違いない。

 アメリカは消費者を守る仕組みが手厚く、たいていの商品は30日間以内、レシートの提出で、いかなる理由であっても返品が可能だ。 日本とは違い、本当に好みのある商品を使うべき、という考え方から、レシートと値札を付けたままプレゼントを渡す習慣すらある。

 Huggiesはベイビーシャワーのコミュニケーションプラットフォームを提供し、自社の「子育ての母親をサポートする企業」といういブランディングを図っているのである。が、Huggiesの試みは、世界観が統一されたプレゼントを受け取れる仕組みの提供だけに終わらない。

 母親と友人、友人間のベイビーシャワーに関するデジタルのコミュニケーションの空間、いたるところに、自社製品の広告を差し込んでいく。下記は、ベイビーシャワーへの招待メールの通知URLをクリックすると、Punchbowlの頁上部に表示されるHuggiesの広告だ。

 クリックするとクーポン券が出現する。ベイビーシャワーのプレゼントとして、Huggiesのオムツを推薦しているのだ。

 Facebookでは、育児をサポートする母親支援コンテンツを提供し、さらにブランドと母親とのリレーションを強化する365日24時間のコミュニケーションも展開している。

 数多くのソーシャルメディアを巧みに使い分けながら新規顧客とのリレーション構築し、ブランディングによって継続的購買を促進し、ビジネス機会を最大化する。これこそ、Social CRMだと考える。

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