日本企業が「データ中心の商取引」に踏み出すための2つのトリガー
IBMが「Smarter Commerce」構想を立ち上げてから2年。多数の導入事例が生まれ、売り上げ増加などの成果を上げる企業も増えつつある。日本企業がデータ中心の商取引に取り組むためのきっかけとは。同社のヘイマンGMに聞く。
「商取引の仕組みを“顧客中心”に作り変える」――米IBMがそうした「Smarter Commerce」構想を立ち上げてから早2年。同構想は「調達」「マーケティング」「販売」「カスタマーサービス」といった商取引のプロセス全体をITによって効率化するもので、これに関する製品、サービスの市場は2020年までに900億ドル規模になるとみられている。
商取引全体の変革というと大がかりなものに聞こえるが、その中心コンセプトはいたってシンプルだ。「Smarter Commerceの狙いは、顧客にとってプラスの経験を増やし、マイナスの経験を減らすことだ」とIBMソフトウェア・グループでインダストリーソリューションを統括するクレイグ・ヘイマンGMは語る。
例えば、消費者が家電などを壊してしまった際、保証期限が切れていても「今回だけは特別ですよ」とメーカーに修理してもらえたら「次もそのブランドで買おう」と思うかもしれない。一方、商品購入時に待遇が悪かったり、アフターサポートが粗雑だったりすると、顧客がそのブランドに対して持つイメージは一気に悪くなるはずだ。
「わたしの両親は80歳を超えているが、あるブランドから10年以上前に受けたマイナス体験を今でも覚えているし、語り続けている」とヘイマン氏。顧客体験を向上させるための手段は何か――その1つは、消費者がPCやスマートデバイスなどでインターネットにアクセスして生まれるデータを活用することという。
世界最大級のオンライン旅行予約サイトを運営する米Expediaは、データの活用で顧客体験を改善した企業の1つだ。ヘイマン氏によると、Expediaの従来の予約フォームはクレジットカード情報や個人情報の入力方法が分かりづらく、ホテルや航空券の予約が成立する直前で多くの顧客を逃してしまっていた。そこで同社は顧客体験分析ソフト「Tealeaf」の活用で、ユーザーが入力を失敗しやすい項目を特定、改善し、週当たり100万ドルの売り上げアップを実現したとのことだ。
オンラインとオフラインの組み合わせで顧客の購買行動を活性化させた企業もある。北米を中心に1600店舗を展開する住宅リフォーム会社のLow'sは、Webサイト内の商品検索システムとユーザーの位置情報取得システムを組み合わせた。これにより、ユーザーはサイト上で商品を探すだけでなく、在庫のある店舗のうち現在地から最も近いのはどこかといった情報も分かるようになっている。
日本企業の商取引を変える2つのトリガー
こうした例をはじめ、「今では世界各国の2000ものブランドがSmarter Commerceを活用している」とヘイマン氏は胸を張る。
だが日本企業の多くは、非オンラインからの売り上げが大半を占め、データを活用した商取引にも消極的なのが現状だ。そうした企業が変革に踏み出すためには何が求められるのか。「2つのトリガー(きっかけ)がある」とヘイマン氏は説明する。
トリガーの1つ目は、CMO(最高マーケティング責任者)とCIO(最高情報責任者)が課題を共有することだ。「企業はさまざまなマーケティングツールに投資しているが、それらはマーケティング部門がCIOに相談せず勝手に導入している場合が多い」とヘイマン氏。CMOとCIOがそれぞれの課題を共有すれば、ITとマーケティングの両方の観点から、最適なツールを選択できるという。
だが日本では、CMOに当たる役職を設置していない企業も多い。その場合は、IT部門がさまざまな業務部門に協力を仰ぐのが重要という。「IT部門は社内におけるITのエバンジェリストとなり、各部門に最適なソリューションを提案していくべきだ」とヘイマン氏は指摘する。
2つ目のトリガーは「競争」、すなわち他社の成功体験を目にすることだという。「Smarter Commerceを導入した2000社の中でも、いち早く着手した企業ほど高い利益を生み出している。例えば、導入が早かった500社の小売企業は、オンラインでの年間売り上げが合計340億ドルに達している。これは2番目に導入が早かったグループとは比較にならない額だ」(ヘイマン氏)
日本でもエンドユーザーを中心に、商取引のあり方が変わる下地は既にできつつあるという。「日本ではモバイル端末ユーザーの99%が高速なネットワークを利用している。また、日本のFacebookユーザーの数は2012年の間に5倍に増え、1500万人に達したという調査結果もある。これは日本のコマースのあり方そのものが変わる予兆だ」とヘイマン氏は話している。
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