「革新を生み出す空間に」――ソーシャルメディアの今と未来、勝間和代さんなど議論:SFC ORF2011 Report(1/2 ページ)
ソーシャルメディアの普及は、企業のビジネスや個人の活動にどのような変化をもたらすか――経済評論家の勝間和代氏、ネットイヤーグループ代表の石黒不二代氏などが議論を交わした。
ソーシャルメディアの普及によって、これまでWeb上で発信してこなかった人々も自らの意見を実名に近い形で投稿したり、友人などと情報を共有し合ったりするようになった。これに伴い、社会全体を取り巻く情報流通のあり方が複雑化していると言われている。
こうした変化の中、個人や企業はソーシャルメディアとどのように向き合い、活用していくべきなのか――経済評論家の勝間和代氏、ネットイヤーグループ代表の石黒不二代氏、慶應義塾大学総合政策学部の國領二郎教授、同大学大学院 政策・メディア研究科のジョン・キム准教授、同研究科の折田明子特任講師が11月22日、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のイベント「SFC Open Research Forum 2011」のセッションで議論した。
和歌集は「まとめサイト」? 平安時代と今の共通点
「平安時代の手紙や和歌といった貴族文化は、現代のソーシャルメディアと共通点がある」と折田氏は話す。
「平安貴族は1日に何度も手紙のやり取りを交わしており、送る時間帯や紙の種類などによって手紙に異なる意味合いを持たせていたという記録がある。それは現代人の『ケータイでメールをいつ送るか』『デコレーションをどうするか』といった感覚とさほど変わらない。このほか『和泉式部日記』『枕草子』などの日記文学はブログの先駆けと言えるし、俳句や短歌は、140文字の文字数制限があるTwitterと似ている。また、それらをまとめた和歌集は今で言う『まとめサイト』のようなものだ」(折田氏)
また折田氏によると、平安時代は短歌などを匿名で寄せても筆跡などから個人を特定されてしまう場合が多かったという。これに関して「平安時代と同様に、現代のソーシャルメディアにおいても匿名性が担保されているとは言い難い」と折田氏は指摘する。
「例えばAさんという人がニックネームでTwitterなどを利用していたとしても、その人の交友関係や、その人を含むリストなどから個人を特定されてしまう可能性が高い。ソーシャルグラフ自体が1つの情報になっているため、見せたくない情報を見せたくない人に見られてしまう恐れがある」(折田氏)
企業にとっては消費者との新たな接点に
一方、企業にとってソーシャルメディアはマーケティングの効果を高めるために有効なツールになるというのが石黒氏の考えだ。
Web上の情報量の増加に伴い、企業が世に出すコンテンツの1つ1つが消費者に注意されにくくなっていると石黒氏は話す。さらに消費者同士がソーシャルメディア上で多くのやり取りを交わすようになった今、「企業は自ら消費者に向けて情報を出していくというよりも、消費者が交わしたやり取りを受け取っていく側に立場が変わりつつある」という。
こうした中、企業はソーシャルメディアの解析ツールを用いることで「消費者の意見や感想、市場動向、自社製品に関する風評などを把握してマーケティングに活用できるようになった」と石黒氏は話す。同様に、これまでカスタマーサポートなどでは対応できなかった消費者の小さな“不満の芽”をソーシャルメディア上で発見し、クレームに発展する前に対処することも可能になったという。
だが、これついて折田氏は「消費者が無意識的に発する『おいしい』『つまらない』といった情報が企業のマーケティング目的で利用されるということは、社会的な価値を生み出す一方で消費者の意図に反してしまう可能性もある」と指摘。「『カレログ』などの失敗を繰り返さないためにも、消費者にとって見せたい情報とそうでない情報をソーシャルメディアの文脈で再定義していく必要がある」と重要性を訴えた。
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