アディダスのデジタルマーケティングの進化
世界的なスポーツブランドとして知られるアディダス。サッカー、野球、バスケットボール、ランニング、テニスなどを軸に、多くの人々に愛用される商品を提供する同社がどのようなマーケティングに取り組んでいるのか。アディダス ジャパンでブランドマーケティング デジタルマーケティングを担当する津毛氏が語った。
デジタルマーケティングへの挑戦
最近話題になったインターネット動画をご存じだろうか。アディダスが手掛けたWEBプロモーションの1つ、「adizero」という商品のバイラル(“口コミ”を期待するマーケティング手法)動画である。
2011年8月にYouTubeに掲載されてから、瞬く間にTwitterやブログなどによって広まり、10月14日現在で97万回以上再生されている。動画の内容は、adizero LABという架空の研究所で、アディダスの新しいランニングシューズ、adizeroを履いた白人男性が「走る際の風圧でミニスカートをめくれるかどうか」を実証実験するというものだ。
この動画、アディダスとしてはチャレンジングな取り組みであったという。このプロジェクトを主導したのが、アディダス ジャパンでブランドマーケティング デジタルマーケティング シニアマネジャーを務める津毛一仁(つもう・かずひと)氏。同氏は「アディダス自身のブランド力や、インターネット動画でのプロモーションの影響力を計測したいということもあって、最初の1カ月はまったくプロモーションをしなかった。また、バイラルを意識した動画はアディダス ジャパンでは初の試みだったので、社内でも議論を呼んだ」と振り返る。
これまでも精力的にデジタルを活用してきた同社だが、昨年よりすべてのブランドキャンペーンや施策においてソーシャルチャネルでのデジタルコミュニケーションの強化を意識し、宣伝予算をさらに積極的に投資するようになったという。
津毛氏は、「デジタルマーケティングの分野において、日本は世界の中でも最先端を進んでいる」と強調する。同氏がここ数年で特に実感したのは、日本はグローバルの中でも独自のモバイル活用とソーシャル・コミュニケーションが進化しているということである。「デジタルの活用こそがマーケティングにおける日本の強みであり、コミュニケーションの鍵」と津毛氏は意気込む。
マーケティングにおけるデジタル活用というと、即効性や瞬間性を重視する企業も少なくないが、アディダスでは、あくまで長期的な視点を持って施策に取り組んでいるという。
「デジタル全般のコミュニケーションでは、スピード重視という面もあるが、それにただ応えていくだけではなかなかファンやユーザーは定着しない。特に、アディダスのように毎シーズンごとに新しい商品を扱うブランドでは、短期的なKPIの達成だけでは、顧客との長期的なコミュニケーションは取れない」(津毛氏)
昨年にアディダスが実施したFIFAワールドカップでのキャンペーンは、ソーシャルネットワークサービス「mixi」を使って瞬間的な盛り上げを生み出していたが、単発な企画で終わってしまい課題点があったと津毛氏は感じている。
ソーシャルメディアで正確にブランドメッセージを
そこで、津毛氏はチャネルの開拓・育成を優先し、着手したのがTwitterやFacebook、mixiといったソーシャルメディアへの取り組みの再編である。この背景として、「アディダスブランドとして、継続的な顧客とのコミュニケーションの場の提供と、体験作りが必要と考えていた」と津毛氏は説明する。
昨年秋、Twitterのアカウントは3つで、フォロワーは1万人程度だった。そこからスポーツのカテゴリ別に増やすなどして、現在では7つのアカウントを複数人で運用する体制をつくった。フォロワーも約4万人と大幅に増加した。Facebookについては、今年4月にページ開設してから、今では約8万人のファンがついている。
ソーシャルメディアの運用においては、基本的にすべて自社で行うことが不可欠だという。なぜなら、ブランドメッセージの伝え方や、その一瞬をとらえてのコミュニケーションは、ブランドの担当者でなければできないからだ。決して(広告代理店など)外部に丸投げしているようでは駄目なのである。
「こうしたマーケティング施策においては、長きにわたりブランドのファンでいてもらうための取り組みが重要であり、そのためには、“記憶に残るコミュニケーション”を図っていくことが肝要です」(津毛氏)
アディダスのデジタルマーケティングに対する取り組みやソーシャルメディア活用の勘所、日本と海外のマーケティングの違いなどについては、マーケティング担当者や広告関係者向けの年次カンファレンス「アドテック東京」でも紹介される予定である。
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