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トリプルメディアを駆使、「情熱の系譜」舞台裏デジタルPRの仕掛け方(2/2 ページ)

2社が合併して誕生した協和発酵キリンは、企業ブランドを消費者に浸透させるために、テレビ、Twitter、iPadを中心としたプロモーション活動を展開した。同社の取り組みからトリプルメディアを駆使したプロモーション活動の勘所を探る。

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マスメディア――テレビと雑誌でリーチ拡大

 「情熱の系譜」プロジェクトでは、どのようなトリプルメディア戦略が展開されていったのか。マスメディアの活用から見てみよう。核のコンテンツであるミニ番組「情熱の系譜」は、各方面で活躍する著名人を現代の「偉人」、彼らが影響を受けた著名人を過去の「偉人」として紹介するコンテンツだ。現代の偉人へのインタビューと過去の偉人が成し遂げた偉業を通じて、過去から未来につながる「情熱の系譜」を描く。ターゲット層である男性のビジネスパーソンに響く硬派な内容が売りだ。

 テレビとともに重要なアプローチが、雑誌「GOETHE」との連携だ。30〜40代の男性ビジネスパーソンにリーチできる媒体としてGOETHEを選び、テレビ番組とは別の人物を取り上げ、現代と過去の偉人を活字で紹介している。ここではコンテンツの編集をエディターに任せ、広告色を出さないようにした。対象ユーザーが記事を通じて協和発酵キリンというブランドに共感するには、編集の力が不可欠だと考えていたからだ。

ソーシャルメディア――TwitterとYouTubeで話題喚起

Twitterアカウント「@jounetsu_keifu」
Twitterアカウント「@jounetsu_keifu」

 続いてソーシャルメディアの話に移ろう。注力したのはTwitterとの連携だ。情熱の系譜プロジェクトの公式アカウント「@jounetsu_keifu」を開設し、「あなたがこれまでに勇気をもらったフレーズは何ですか?」というテーマに対するツイート(つぶやき)を募集した。人気の高いツイートを、@jounetsu_keifuから再配信している。

 Twitterでは、消費者が「未来の偉人」として自身の「情熱の系譜」をツイートすることで、番組の続きを消費者自身が作り上げていく。「現代と過去」というテレビ番組の視点に、「未来」という軸を付け加えた形だ。8月3日現在、@jounetsu_keifuのフォロワーは1500人近くに上っている。

 テレビの放映時間に合わせて、番組のコンテンツをYouTube上で同時配信した。YouTubeの活用により、普段テレビを見ない新たな視聴者層を掘り起こせる。公開した動画(番組)は、1本当たり1000〜4000回の視聴があった。

 これらの取り組みをプレスリリースで逐一配信することで、マスメディアによる記事が生まれる。ここでも新たなリーチを獲得できるというわけだ。

自社メディア――iPadに活路

情熱の系譜」専用のiPadアプリ
情熱の系譜」専用のiPadアプリ

 トリプルメディア戦略を支える自社メディアの肝は、iPadを駆使した自社メディアの展開だ。「情熱の系譜」専用のiPadアプリを提供し、ミニ番組のアーカイブやiPad限定の著名人のコンテンツなどを提供している。独自の取り組みとして、協和発酵キリン 松田譲社長が「情熱の系譜」を紹介するコンテンツも用意している。

 情熱の系譜という番組やコンテンツに共感した視聴者は、iPadを通じて自然な流れで松田社長の情熱にも触れる。iPadアプリの役目は、協和発酵キリンの世界観やブランドを自発的かつ深く理解できる仕組みをもたらすことだ。

 このiPadアプリは、協和発酵キリンの自社メディアとして位置付けている。番組スポンサーとして協和発酵キリンを最後に紹介するなど、コンテンツの読者を第一に考えた作りに徹することで、広告と編集コンテンツのほどよいバランスが生み出す「共感」の醸成を特徴とした。ダウンロード数は約1カ月で1万を超え、提供開始から2カ月以上経った現在(8月3日)も、無料アプリランキングで2位を獲得している。


 多彩なコンテンツを提供できるiPadは、企業の自社メディアとして非常に優れている。大きなマルチタッチスクリーンや、鮮やかな色彩、指先でフリックする直感型の操作性は、企業ブランドの世界観を存分に表現できるだろう。展開するiPadアプリにEC(電子商取引)機能などを組み込むことで、「認知」「理解」「購買」というマーケティングプロセスをiPad上で実現できることも大きな強みになる。

 「情熱の系譜」プロジェクトは、トリプルメディアが互いに作用しながら、協和発酵キリンの世界観を表現した。消費者が接触するメディアの変化により、企業はコミュニケーションチャネルの幅を広げ、デジタルPRを実現していく必要がある。日進月歩で進化するデジタル環境に対する消費者の反応は早い。消費者が動く前に先手を打っていくことが理想といえるだろう。次回は同プロジェクトの具体的な効果や課題を掘り下げたい。

著者プロフィール:野崎耕司(のざき こうじ)

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ビルコム タッチパッド端末事業部ディレクター。宮城大学大学院事業構想研究科卒。2006年1月ビルコムに入社し、コンサルティング、不動産、Webサービス、出版などの業界でB2B、B2Cを対象としたPRコンサルティングを経験。2009年1月よりブランディング、マーケティング活動に従事。デジタルツールを駆使したマーケティングプランニングに精通しており、共著に『Twitterマーケティング』(インプレスジャパン)がある。2010年6月よりタッチパッド端末事業部ディレクターに就任し、「iPadブランドマガジン」をはじめとするタッチパッド端末事業の商品開発から営業/制作までを一貫して統括している。


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