顧客優先マーケティング――CRM概論(1/2 ページ)
現在、カスタマーリレーションシップマネジメントの重要性が叫ばれており、企業として取り組むべき最大のテーマと言われている。
現在、カスタマーリレーションシップマネジメントの重要性が叫ばれており、企業として取り組むべき最大のテーマと言われている。CRMは、従来のマスを対象とした大量生産や大量販売から、特定の顧客セグメントにターゲットを絞り、さらには、個々の顧客により深くサービスを提供しようとするもの。顧客とのより親密な関係を築きあげるため、顧客のニーズをよりよく理解し、それに基づいて商品やサービスを提供する取り組みだ。
製造業や小売業の究極の目的は、マーケットシェアの拡大ではなく、消費者の家計支出に対する自社のシェア(ワレットシェア)を拡大し、さらに、顧客の生涯における自社とのつきあいの度合い(ライフタイムバリュー)をいかに大きくするかにある。
小売業において具体的には、顧客にポイントカードを持ってもらい、買物の度に売上明細を取得し、顧客データベースに明細データを蓄積していく取り組みが行われている。買い上げ額によって、顧客にさまざまな特典を与えるほか、このデータを通じて顧客を理解し、さまざまなコミュニケーションを図って関係を深める。
日本においても多くの企業がポイントカードシステムを採用しているが、残念ながら販売促進の道具、さらには値引きなど、まだ理想には少し届かない形で用いられているケースが多い。顧客優先の考え方は以前から商売の基本であったはずだが、なぜ今あらためてCRMなのか。この特集では、1回目の今回はCRMの概説を行い、次回は地域スーパーマーケットと高級百貨店における事例を紹介する。活用事例にはどのようなものがあるのかを見ていく。
CSからCLへ
企業にとってCS(カスタマーサティスファクション)をいかに高めるかは最重要課題の1つであり、あらゆる企業が顧客満足のあり方を模索している。
多くの企業がCS推進室を設置し、顧客アンケートを分析し、また外部調査機関に調査を依頼するなどの各種施策を講じてきた。それには、顧客からより高い満足を得れば、購買機会が増加し、企業業績に貢献するという思いがある。企業は競って、顧客満足度を企業経営の指標として採用した。顧客満足度は事業部や社員の業績評価にも採用される勢いであった。
しかしながら、顧客満足度が必ずしも企業業績と連動しないという側面が次々と現れてきた。テキサス大学ロバート・ピーターソン教授の調査によると、85%の取引先が満足していると応えているにもかかわらず、彼らはほかの供給先を探している。
「わが社の顧客満足度は4年続けて向上しているのに、なぜ売り上げや利益は増加しないのだろう」
確かに、顧客満足を追求するのは企業として当然の姿勢だが、ここで問題を発生させているのは顧客満足度調査の誤りである。調査対象者、設問、タイミング、さらには調査が恣意的になれば結果は大きく違ってくる。
新たな基準「カスタマーロイヤルティ」
顧客満足に代わる新たな規準が必要になってきている。それがCL(カスタマーロイヤルティ:顧客忠誠度)である。具体的には、過去の顧客販売実績から、カスタマーリテンションレート(顧客維持率)、ワレットシェア(顧客消費内自社利用率)を分析することにより、だれが自社にとって大事な顧客であり、だれが離れていっている顧客なのかを把握することである。このためにはロイヤルティツールとして、データウェアハウス、各種分析プログラムが必要になる。
顧客マーケティングにおける2つの原則
『顧客識別マーケティング』の著者であるブライアン・ウルフ氏は、顧客別マーケティングには2つの原則が存在していると話す。
1つ目の原則は、「すべての顧客が企業にとって平等ではない」こと。顧客1人1人の購入品目や買い上げ金額、来店頻度はまちまちであり、店への利益貢献度はそれぞれ異なっている。特売商品だけを購入するチェリー・ピッカー(美味しそうなサクランボだけを摘まむ人からきている)と、来店頻度が高く利益貢献度の高い客に対し、同じ価格と同じサービスで対応するのは賢明なやり方ではないと指摘している。
20/80の法則で、上位20パーセントの顧客が全体売り上げ額の80パーセントを占めているのであるならば、だれが上位20パーセントでだれがトップ10の顧客であるかをとらえ、上得意客に対して、より行き届いたサービスを提供し、特典を提供すべきである。
2つ目の原則は、「与えられる特典、相手が自分にどう報いてくれるかによって、消費者購買行動は影響を受ける」こと。人間は、自らが相手にとってどんなに重要な存在であるのかを知ってもらいたいと思っており、相手がそのように対応した場合、その提案を受け入れる傾向がある。
そのため、顧客はすべて大事であるという考え方は貫くものの、企業に対する貢献度によって、特典や情報の内容に差をつけ、また日頃のコミュニケーションのあり方にも特別の配慮をする姿勢も必要だ。情報システムの急速な高度化と導入のしやすさによって、商品を中心とした競合から、顧客を中心に据えた競合が可能になってきたのである。
カスタマーリレーションシプマーケティングの3つのレベル
CRMは以下の3つのレベルで段階的に発展していくと言われている。
第1のレベルは、ダイレクトマーケティングだ。これはデータベースマーケティングの初期段階であり、多くの小売業はこのレベルにとどまっている。通信販売会社や通信販売業務で先行的に採用されている。ダイレクトマーケティングのレベルでは、顧客リストのデータベース化が基本要素であり、カード入会申込書、商品購入申込書からデータベースを構築する。
ここでは特定の顧客グループを選定したターゲット・マーケティングを実践しており、その分析手段として多くはRFM手法が利用されている。R:Recencyは直近での購入履歴、F:Frequencyは購入頻度、M:Monetaryは購入金額であり、それぞれの要素にウエイトをつけて顧客の重要性を判断する。
これら分析技術を使って、消費者嗜好、地域別の動向、商品別の動きを見ていき、顧客をセグメントに分けて分析していく。ダイレクトメールのヒット率向上など、特定の販売促進策が最大の効果を上げることを目的としている。また、顧客リストのメンテナンスと名寄せなどの統合作業をいかに継続的、正確に行うかもポイントだ。
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