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中国のデジタルマーケティング、日本の常識が吹き飛ぶ3つのトレンド【連載】よく分かる越境EC 最終回(1/2 ページ)

中国向けビジネスで成功するには、中国ならではの特殊事情を理解し、適切な施策を打つことが求められます。今回は中国における最新のマーケティング手法について解説します。

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中国 | メイドインジャパン | 個人輸入


 こんにちは。翁 永飆(おう・えいひょう)です。

 前回「中国向けビジネスはいつも想像の斜め上を行く――越境ECを阻む『3つの壁』について」では、日本企業が越境ECに取り組む際に必ず直面する課題について解説しました。

 それらの課題を解決して越境ECを開始したら、次はユーザー向けにどのようにマーケティングを行い、売り上げを伸ばしていくかを考えなくてはいけません。しかし、中国のマーケティング事情は日本の常識で考えるとかなり特殊です。日本企業のやり方はほぼ通用しないと言っても過言ではないでしょう。

 今回は、そうした中国のマーケティングトレンドと、それに対応するための手法について解説します。

トレンド1. 「WeChat」の生態系

 例えば、日本企業が新商品に関して日本国内でマーケティングを実施する場合、一定のパターンが存在しています。例えば、まずその商品のイメージにあった芸能人やモデルなどのインフルエンサーを選定し、商品の使用感や感想を雑誌やWebなどで掲載してもらい、その後に「Facebook」や「Instagram」などで拡散されて話題になる。その後に検索で探してもらうためにSEO(検索エンジン最適化)などの対策も施す必要があります。これらの流れを踏襲することで、初めてブームになるのです。しかし、中国は異なります。

 中国では、テレビや雑誌などのメディアは、日本ほど影響力がありません。テレビは多チャンネル化が進んでおり、人気があるといわれる番組でも視聴率は微々たるものです。

 中国の消費者は、トレンド情報を主に「WeChat」や「Weibo」など、中国発のSNSで検索して取得します。GoogleやFacebook、Instagramは規制により閲覧ができなくなっているため、そもそもこれらを使ってマーケティングを仕掛けることは不可能です。

 このような背景から、中国では独自のインターネット文化が形成されています。特にWeChatはさまざまな機能が付加され、単なるチャットアプリとしての役割だけではなく、従来のメディアを包括し、それ以上の機能を持つ特殊な位置付けに達しているといってもよいでしょう。

 WeChat内では、美容情報や子育て情報、ライフスタイルやゲーム、各国の文化に関することなど、多くの人がブログ感覚でさまざまな情報を発信しています。そして、中には数百万あるいは数千万という、日本では考えられない桁違いの数のファン(フォロワー)を獲得している人も大勢いるのです。

 そうしたメディア化した個人アカウントはWeChat上の「新媒体」または「KOL(Key Opinion Leaders)」と呼ばれています。KOLがWeChat上で商品を紹介すると、そのファンが一気に購入し、爆発的なヒットとなることも少なくありません。企業は彼らとうまくリレーションを作り、自社の商品を紹介してもらうことができれば、ヒットの可能性を高めることができます。課題はいかにそれを実現するかです。

 KOLのアカウントは個人または少人数で運営されていることがほとんどで、代理店や事務所がなく、商品紹介や宣伝の料金表もあらかじめ決まっていません。そのため日本企業にとっては、自社イメージにあった新媒体やKOLを選定し、実施に至るまで全て個別交渉となる点が大きな障壁となっています。

トレンド2. KOLとライブコマース

 上述のKOLと呼ばれる人々の特徴の1つが、ライブコマースと呼ばれる手法でスマートフォンを通じて情報発信をしていることです。

 日本で商品情報の紹介ページというと、写真やテキスト情報を駆使して作りこむことになりますが、制作側の手間がかかるわりに、見る側のユーザビリティがよくないページも多いものです。

 動画についても、日本ではテレビCMと同じようなものが多く、さらに動画からすぐに購入できるような仕組みには、ほとんどなっていないません。購入できるにしても決済までのステップが長くなっており、動画と購入が分離されていることが課題です。

 しかし、ライブコマースであれば、リアルタイムの動画配信によりKOLが何万もの視聴者を対象に、商品を手に持ちながらその企業やブランド、商品そのものの魅力を迅速かつ的確に伝えることが可能です。いわばスマホ上のテレビショッピングのようなものであるため、ユーザーも直観的にその商品の購買意欲を抱きやすくなります。

 さらに、中国のライブアプリでは決済までのステップが簡略化されており、視聴者が欲しいと思ったら即購買できるようになっていることも特徴です。

 KOLの中には、わずか数十分の間に何億円という売り上げを記録する人も出現しています。ライブコマースほ、歴史が浅いながらも、既に中国マーケティングにおいて不可欠な手法となっているといえるでしょう。

図1:KOL
KOLによるライブコマースの例《クリックで拡大》

 KOL活用には、マスマーケティングにおけるメディアバイイングなどとは違う難しさがあります。当社インアゴーラでも、さまざまなKOLとの提携によりマーケティング施策を実施していますが、数々の試行錯誤がありました。

 例えば化粧品をKOLに紹介してもらいたいと考えたときに、単に女性のKOLであれば誰でもよいというわけではなく、また、ファン数が多ければよいというものでもありません。しっかりと企業やブランド、商品のイメージにマッチする新媒体やKOLを選定し、その打ち出し方もKOL自身のイメージと合わせ、いかに自然な形でプロモーションを実施するか、調整力や実行力が成功の可否を分けます。

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