楽天経済圏を支えるアクセス解析の全貌(前編)(1/3 ページ)
企業において、経営視点を取り入れたデータ中心のWeb戦略が不可欠になりつつある。40ものオンライン事業を手掛ける楽天は、アクセス解析を浸透させる組織を作り、ビジネスの成功に結び付けている。楽天の取り組みの全貌を伝える。
楽天は約40ものオンライン事業を手掛け、会員数は6400万人以上、「楽天市場」と「楽天ブックス」だけでも流通総額8000億円以上(2009年)を稼ぎ出している。ひとたびWebページを開けばさまざまなサービスが存在し、ユーザーは自由に何度でもサイトを横断できる――。楽天ではこの循環型のエコシステムを「楽天経済圏」と呼び、会員データベースを軸にしたマーケティングの強化やリアルビジネスとの融合を視野に入れた価値の創造にも挑んでいる。
楽天経済圏の成長の鍵を握るのがアクセス解析である。JavaScriptやcookieを駆使する最近のアクセス解析ツールは、一昔前のログ解析ツールとは異なり、通常サーバ側のログには残らないユーザーの行動ベースのデータを計測、解析できる。ハイエンドなツールの場合、他システムとAPIで連携したり、BI(ビジネスインテリジェンス)に取り込んだデータをオフラインのデータソースと組み合わせて多変量解析したりすることも可能だ。
楽天では、社内にアクセス解析の専任チームを設置し、半年でアクセス解析ツールを全社導入した。現在は、1300人超のスタッフがアクセス解析の結果を活用した検証を行い、ビジネスの改善に取り組んでいる。
あらゆる企業において、経営視点を取り入れたデータ中心のWeb戦略が重要課題となりつつある。本稿では、楽天経済圏を支えるアクセス解析の取り組みの全体像を伝える。
オンライン事業とアクセス解析の密接な関係
オンライン事業における各種KPI(重要業績評価指標)のリアルタイム分析は、事業の仮説を立て、施策の成果を検証するために重要だ。アクセス解析では、ユーザーの行動や購買の変化を早期に察知し、その原因を深堀りしていく必要がある。データによる仮説検証と効果測定で得られたノウハウをビジネスに活用する「データドリブン(データ中心)な経営」は、ビジネスにおける誤った判断を防ぐことができる。
仮説検証に結び付くアクセス解析には、各種の指標を組み合わせたクロス集計や条件の絞り込み、データ粒度の柔軟な変更、グラフ化によるトレンドの把握――といった機能が求められる。単にアクセス数や売り上げの結果を知るだけでなく、指標を細かく測定、集計し、効率よくレポートに落とし込まなければならない。
また、定型的なレポーティングの工程は、半自動化する必要がある。この部分の作業効率を高めないと、事業部のルーティーンワークとして定着しないからだ。アクセス解析担当者の仕事はデータの分析であり、分析レポートの作成ではない。アクセス解析の作業負荷という課題は、事業や組織が大きくなるにつれて、複雑化していく。
業績の見える化が課題に
楽天には、業績を因数分解した複数のKPIを日/週/月別で追いかけ、オンライン事業の成功・失敗の要因をデータで分析する文化がある。そこで、2006年にアクセス解析の本格導入を開始した。
だが、アクセス解析を続けていく中で、KPIの粒度や精度、取得できる指標、レポートの表現力、作業効率、リアルタイム性――といった点に課題が生まれてきた。当時は、事業ごとに異なるアクセス解析ツールを活用しており、その多くはPV(ページビュー)やUU(ユニークユーザー)、クリック数、コンバージョン率といった単体の指標しか算出できなかった。
また、オンライン事業のPDCAサイクルを回す中で、「なぜ売り上げが上がったか」「コンバージョン率と連動する指標は何か」「もっと細かく調べられないか」など、事業部からデータに対する細かな要求が積み重なっていった。
2006年時においても、楽天の事業に関連するサーバ数とデータ量は膨大だった。すべてのサーバのアクセスログを集計すると時間がかかり過ぎるため、別の手段を講じる必要があった。
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