AIの台頭は、消費者の購買行動を大きく塗り替えつつある。チャネルが多様化し、カスタマージャーニーが複雑化した今、マーケターは何を指針に戦略を組み立てるべきなのか。
AIの普及とチャネルの多様化は、デジタルマーケティングの環境を大きく変えた。消費者の購買行動が激変する今、企業の広告設計も変革のタイミングを迎えている。「これからのAIマーケティングにおいて成否を分けるのは、ツールの機能ではなく、学習させる『データの量と質』という前提そのものです」こう指摘するのは、Criteoのプロダクトデータサイエンス部門の責任者であるジェローム・コベール氏だ。
AIの普及に伴う購買行動の変化について、コベール氏は「変化はソーシャルメディアが台頭した時代から既に始まっていました。マーケターが理解すべき点は、『何かを買うというユーザージャーニーそのものは変わっていない』ということです」と指摘する。
消費者は今も昔も商品を探して比較し、自分の選択が正しいという確証を得て購入に至る。しかし、チャネルが多様化したことでその過程が一直線ではなくなった。コベール氏が「AIの普及による最大のインパクト」と表現するのは発見のプロセスが圧縮されたことだ。
AIが登場する前、消費者が新しいプロダクトを探す場合は検索エンジンを使うことが多かった。ブランドのWebサイトやブログの投稿、製品に関する記事など、信頼できる情報源にアクセスして情報を得るというプロセスを踏んでいた。しかし現在は、AIと対話しながら製品を検討できるようになって商品を発見するまでの時間が短くなるケースが増えた。これまでの整然としたカスタマージャーニーでは、消費者の購買行動を語り切れなくなっている。
「だからこそマーケターはさまざまなタッチポイントにデータを張り巡らせて最良のインテリジェンス(知性)を組み立てることが重要になります。消費者を理解してジャーニーの終点までできる限り速く導くこと。そこにコマース・インテリジェンスの役割があります」
消費者がAIを駆使して欲しい商品に瞬時にたどり着いた場合、ジャーニーは短くなる。一方、発見のプロセスが圧縮されたことで多くの商品を吟味するようになってジャーニーが長くなる消費者もいる。カスタマージャーニーを理解することは一筋縄ではいかない。
「旧態依然としたやり方はもう通用しません。今後は広告の効率性がさらに求められます。AIによる発見は新しいチャンスを生む一方、これまでのエコシステムを覆すほどの影響力を持っています」この変化は、広告主にとってチャンスにもリスクにもなり得るわけだ。
複雑化したカスタマージャーニーに対応するために最も重要なのが「データの質と量」だ。いくら有能なLLMモデルを活用しても、AIが参照するデータが信頼できる内容でなければ、そのマーケティング施策は“絵に描いた餅”になってしまう。
コベール氏は、これからの時代に必要なマーケティング要素として、広告の「レレバンス(関連性)」と「エフィシエンシー(効率性)」「インテリジェンス」を挙げる。自社の広告が消費者に刺さる内容になっているか。それを効率良く実行できているか。それを判断して実行するためには、システムにインテリジェンスが備わっていなければならない。
「これまでは発見のプロセスに制約があったため、消費者が欲しいと思っても最適な商品に出会うのが難しいことがありました。しかし今は、消費者が真に求めている商品に瞬時に出会える時代です。『有名なブランドだから多くのユーザーに発見される』という時代から、有名無名にかかわらず、さまざまなタッチポイントを経て『その人に最適なもの』が表示される時代になったのです」
豊富なデータを基に消費者を理解して効率良く関連性の高い提案ができなければ、その商品はあっという間に埋もれてしまう。だからこそ、単に広告バナーをクリックさせるだけの最適化から、消費者の自律的な意思決定を支えるデータ戦略へのシフトが欠かせない。
日本のデジタルマーケティング市場では、広告のクリック数や顧客獲得単価(CPA)といった短期的な指標をKPIに置くケースが多い。AI時代におけるKPI設計について、コベール氏は「測定の指標とマーケターの目的を一致させる必要があります」と説く。
「近年、多くのベンダーが購入直前の『ラストクリック』をKPIに設定する手法を唱えています。購入する商品を既に決めている消費者の場合は、ラストクリックが有効な指標になるでしょう。ECサイトに遷移してそのまま買い物ができるからです。しかし、発見段階の消費者の場合は違います。商品情報を調べる中で表示されたバナー広告から商品ページを訪問し、2週間後にECサイトで購入したとしたら、どちらのクリックが重要でしょうか。そのユーザーにとって価値のある指標は、実は発見段階でクリックしたバナー広告かもしれないのです」
効果指標の考え方も一枚岩ではない。状況が複雑になった今こそ、指標を目的に応じて使い分けてデータを構造化し、相互運用できる状態にすることが優先事項だ。
こうした複雑な環境下で、広告主を判断の迷いや運用負荷から解放するのが、Criteoの「コマースインテリジェンスプラットフォーム」だ。年間1兆ドル規模のコマース売上高のデータを分析している。
「消費者が商品を発見して購入するまでには、記事を読んだりECサイトで商品を見比べたりなど100以上のイベントがあります。私たちのシステムは、毎秒、数百万件のイベントを記録しています。売り上げはもちろん、販売元や広告主の接点、250億点に及ぶ商品カタログ、価格や割引情報、ブランドや商品説明といったコンテキスト、消費者の行動習慣を保有しています」
汎用的なWebの行動履歴とは異なり、Criteoのプラットフォームは全てを「コマース基準」で構築している。コマースのデータしかAIにフィードしないため、消費者が次に興味を持つ商品を高い精度で予測して、自律的な意思決定を支えられる。
Criteoは2026年3月、OpenAIの「ChatGPT」における広告パイロットに参画することを発表。日本企業も、同年6月からCriteoを通じてChatGPT Adsの広告在庫にアクセスできるようになった。コベール氏は「この取り組みも、コマースを支援するCriteoの姿勢の表れです」と話す。
また、同社はAIショッピングアシスタント用AIエージェント「エージェンティック・コマース・レコメンデーション・サービス」を提供している。これはMCP(Model Context Protocol)を活用してAIエージェントと広告、コマースデータを連携させたものだ。購買行動データに基づいたパーソナライズな提案を実現する。
「Criteoが実施したテストでは、LLMに私たちのレコメンデーションシステムを組み合わせることで、提案する商品の関連性が最大60%向上しました。関連性が高まれば、マーケターはより効率的に数値的な成果を得られるようになります。データを基に消費者を理解することでレコメンドの精度は上がり、顧客体験も洗練されていくはずです」
併せてディスプレイ広告と動画広告のフォーマットを使用してフルファネルでチャネル横断型のキャンペーンを実行できる「GO キャンペーン」を開始した。通常、フルファネルでチャネル横断型のキャンペーンを組もうとすると、テレビ、Web、SNSなど環境ごとに断片化してしまい、多くの人手が必要になる。「GO キャンペーンなら、1つの目的と予算で、質の高いトラフィックの獲得から新規顧客のコンバージョン、収益の最大化まで、購買までのさまざまな段階で効果を最適化します。AIが入札やターゲティング、クリエイティブ要素などをリアルタイムで調整し、キャンペーンの効果を最大化します」
これらのサービスでは、Criteoの精緻な消費者理解が発揮される。あるブランドに対するロイヤルティーが高い消費者にはそのブランドの商品を提示。クーポンに反応しやすい消費者にはクーポン付き商品を提案するなど、過去の行動や好みに合わせて情報を出し分けられる。Criteoの豊富なデータをベースに、消費者がジャーニーのどの段階にいるのかも把握できる。「データとインサイトが多いほどレコメンドの精度が上がり、顧客体験もより洗練されていくはずです」
このフルファネル型アプローチの効果は、日本国内では「ショップジャパン」を運営するオークローンマーケティングで既に実証されている。同社は、Criteoのソリューション導入直後、新規ユーザー獲得に関する広告費用対効果(ROAS)の目標値を達成。実施期間における新規ユーザーからの売り上げは前年比2.5倍という成果を記録した。
AIの進歩が著しい今、マーケターの役割はどう変わるのか。「理解してほしいことは、AIは人に取って代わるものではありません」とコベール氏は強調する。
「今まで話した内容は『AIアシスト・ショッピング』の世界です。私たちは、AIが人の代わりに買い物をする世界を描いているわけではありません。マーケティング分野にAIが台頭したことによって変革が起きていることは事実です。この激しい変化の中で、テクノロジーを役立てていかに適応するかが鍵になります。AIは強力なツールですが、あくまでマーケターの創造性や戦略を支え、支援するための存在です」
複数の異なるキャンペーンを複数のチームで管理しなければならなかった複雑なマーケティング運用をCriteoのAIが架け橋となって統合し、シンプルに変える。チャネルの複雑化や人手不足という壁に直面する日本の経営層やマーケティング責任者にとって、強固な購買データ基盤とAIの協調こそが、次なるビジネス成長をけん引する強力な武器になるはずだ。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia マーケティング編集部/掲載内容有効期限:2026年8月12日