「Sitecore Experience Cloud」が実現するもの――データ統合、機械学習、マーケティングオートメーションCMSと関連製品群を刷新(2/2 ページ)

» 2017年11月14日 17時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]
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強化されたデータ収集機能と機械学習の実装

 ブランドがやるべきこととしてアンダーソン氏は「消費者のふるまいを理解すること」「コンテンツをマッチさせること」「それをリアルタイムに提供すること」の3つを挙げた。そして、新しいSitecore Experience Cloudがそれを支援すると述べた。

 アンダーソン氏はSitecore Experience Cloudの特徴を「データ統合」「機械学習」「コマース」「クラウド」の4つにまとめている。

 このうち、データ統合を担うのが、新たに加わった「Sitecore xConnect」だ。これは豊富なAPIやサービスを取りそろえたフレームワークで、さまざまなデータソースからデータを収集し、Sitecore(XPおよびXM)で収集した顧客の行動履歴などのデータと統合できる。SitecoreではこれまでMicrosoftのCRM製品である「Microsoft Dynamics 365」との連携機能として「Sitecore Connect for Dynamics 365 CRM」を提供してきたが、バージョン9からは「Sitecore Connect for Salesforce」も加わり、Salesforce.comとも連携可能になった。

 また、今回、機械学習エンジン「Sitecore Cortex」も発表した。これによりインテリジェントなアルゴリズムにより、顧客に関する膨大なデータからリアルタイムのインサイト(洞察)を得ることができる。そして、これを利用してオムニチャネルでデジタル体験の演出に活用できるという。「個別にデータサイエンティストがついてくるようなもの」とアンダーソン氏は語る。

 これらの機能を使ったパーソナライゼーションの手法について、セイントシア氏は架空の家電メーカーの例を挙げて説明した。まず、あるユーザーが不動産に関するデータから新しい家を購入したことが分かったとする。同じように家を買ったばかりの人が最も関心を寄せるのは何か。 Sitecore xConnectを通じて収集されたさまざまなデータをSitecore Cortexが統合的に分析する。結果、それがホームシアターだということがデータから分かったら、たくさんの製品ラインアップの中からホームシアターをお薦めするという具合だ。このパーソナライゼーション自動化は瞬時に行われる。

 このユーザーが現物を見に店舗を来店した折には、接客担当はこの人がどのページを見てどの商品に興味を持っているか、SitecoreからCRMに送られたデータによって把握している。ユーザーの検討がさらに続き、再びWebサイトに戻ってきたら「Welcome Back」のメッセージを出すこともできる。

 Sitecore Experience Cloudではコマースツールも提供する。これはオンラインストアの立ち上げを簡単にするものだ。ここに「データをさまざまなソースから引っ張ってきて新しいセグメントを特定し、コンテンツとコマースをシームレスにつなぐ」(スコット氏)機能が加わったことで、オンラインとオフラインをまたいだ望ましい顧客体験が実現するというのだ。

 ECの運営に際しては、トランザクションの急増にシステムが追い付かず機会損失を生むという課題もあるが、それを解決するのがクラウドのスピードと拡張性だ。Sitecore Experience Cloud on Microsoft Azureでは、新たなインスタンス(仮想サーバ)を30分で展開可能。スケールアウトも柔軟にできる。

コンテクストマーケティングを実現する

 続いて原水氏は、実際に製品を操作しながらSitecore Experience Cloudの特徴を説明した。コンテクストマーケティング、すなわちユーザーのプロファイルや過去の行動履歴を理解しながら適切な瞬間、適切な場所でコンテンツを提供する上での課題として、原水氏は「技術的な課題」「洞察の課題」「コンテンツの課題」の3つを挙げる。どうやって個人を特定してプロファイルするのか。膨大なログからどうコンテクストをつかむのか、そしてどうやってコンテクストを意識したコンテンツを提供していくのか。これらの課題にSitecore Experience Cloudが応えるというのだ。

 コンテンツ作成に際して、一から作る際には編集ツールである「Experience Editor」が役立つ。これはテキストや画像、リンクなど、ページに表示されているアイテムをWebブラウザで見たままに編集できるもので、HTMLの知識がなくてもページ作れる。ドラッグ&ドロップで利用できるテンプレート(Experience Accelerator)も用意されている。作ったページはエクスポートしてデザイナーに渡すことができ、逆にインポートも簡単だ。専用エディターだからといってデザインが制限される心配はない。

 単にページを作って終わりではない。これをユーザーの属性や行動履歴に応じてパーソナライズしなければならないが、パーソナライズのルールもメールの振り分けのような形で簡単に設定できる。ルールは属性や行動履歴などさまざまな要素から設定可能だ。例えばCRMと連携して肩書に「部長」と入っている人だけに特定のコンテンツを表示したり、訪問回数が10回を超えたユーザーをニュースレターの購読ページに誘導したりすることもできる。

マーケティングオートメーションを実装

 ページ作成やパーソナライズが簡単なだけではない。Sitecoreは運用の自動化も実現する。バージョン9ではマーケティングオートメーションの仕組みが実装され、シナリオに応じて次のアクションを分岐させることができるようになった。

 例えばニュースレターの購読をトリガーに、3日以内にユーザー登録してログインしているかといったことで「エンゲージメントバリュー」を測定できる。これにより、B2B企業であれば、一定のスコアに達したらコンタクトリストに追加して営業担当者からアポイントを取ったり、スコアが低ければ他のキャンペーンを薦めてナーチャリングするという使い方ができる。

 シナリオのパターンもテンプレート化されているため、キャンペーンのアイデアを思い付いたらすぐに実行し、改善も素早くできる。「大きなフローチャートを作るのではなく効果を見ながら少しずつ改善していくことができる」と原水氏は語る。

 マーケティングオートメーション機能は、現時点ではWebページの出し分けのみ実装されているが、近日中にメールアクションやECとの連携もできるようになる。これにより、ショッピングカートに商品を入れたまま購入ボタンを押していないユーザーにメールでアクションを促すといったこともできるようになる。

 手軽なコンテンツ作成、膨大なデータソースと機械学習によるインサイトの把握、そしてマーケティングオートメーション。高速にPDCAを回して改善を積み重ね、より良い顧客体験を提供していきたいマーケターにとって、進化するCMSは、強力な武器になっていきそうだ。

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