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» 2016年07月31日 11時00分 UPDATE

【連載】キーワードで読む「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」 第6回:なりわいワード――企業はそのとき、「何屋」になるのか (1/2)

顧客の過去・現在・未来のエクスペリエンスは「データ」を媒介にして1本の「時間」の軸で長くつながって行く。全ての産業がサービス業化する時代のマーケティングとはどうあるべきなのか。

[朝岡崇史,電通デジタル]

『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』について

書影

 スターバックスの「The Third Place 」(オフィスでも家庭でもない第3の場所)やディズニーランドの「Where Your Dreams Come True 」(夢がかなう場所)に代表されるように、これまで、エクスペリエンスの提供は体験の「場」にフォーカスしてきました。しかし、いったんIoTが導入されると顧客の過去・現在・未来のエクスペリエンスは「データ」を媒介にして1本の「時間」の軸で長くつながって行きます。そして、このことは全てのインダストリー(産業)がカタチを変えて、サービス業になることを示唆します。顧客のエクスペリエンス、すなわちブランド体験価値が変わりゆく中、マーケターはどうするべきか。エクスペリエンスデザインの専門家と読み解いていきましょう。

※本稿は朝岡崇史『IoTビジネスモデル革命』(ファーストプレス)から一部の内容を抜粋・編集して転載しています。


「なりわいワード」とは何か

 「なりわいワード」

 企業が「破壊的イノベーション」を乗り越え、これまでにお客さまが経験したことのないエクスペリエンスの創造に成功して、独自のビジネスモデルを確立したときの企業の状態を示す言葉を私たちはこう呼んでいる。本来、「なりわい」とは「生業」のことであり、企業の収益源となる「食い扶持」そのものを意味する。

 「なりわいワード」は企業主語で記述された企業の中長期の経営事業戦略のゴールをお客さま主語の言葉で翻訳したものだ。かみ砕いて言うと「なりわいワード」はエクスペリエンスとビッグデータの統合運用を前提にして企業自らがお客さまに提供するエクスペリエンスの中身について深く検討を重ね、なるべくお客さまが分かりやすい形で定義したものということになるだろう。「なりわいワード」は企業とお客さまの間で理解を共有することが前提になる。理想的には「くつろぎと創造の時間を生み出す自動運転サービス業」や「成果にコミットするスポーツトレーニング業」のように的確さや簡潔さが重要である。

 実際の企業の事例で分かりやすいのが、ヤフー(日本)の「課題解決エンジン業」、コマツの「建設オペレーション業(ICT×建設機械業)」だ。

 ヤフーの場合、自社の成長戦略を考えたとき、もはや「検索エンジン業」という狭い領域のサービス業に居続けることは許されないと判断したと推察される。つねにユーザーファーストであり続け、ITの力で企業や社会の課題を解決して行く「課題解決エンジン業」に進化して行こう、という経営者の決意が透けて見える。「課題解決エンジン業」という「なりわいワード」をお客さま目線でもう少し開いてみれば「ITに強いマーケティングコンサルティング業」ということになるだろうか。

 また、コマツも既に「建設機械メーカー」という製造業ではない。「スマートコンストラクション」と呼ばれるICTを駆使したインテリジェントマシンコントロールを導入することによって、コマツのお客さまである現場の建設作業員のエクスペリエンスを大きく変えて行こうというのである。あらかじめ3Dの設計データを読み込ませたICT油圧ショベルにGNSS(グローバル衛星測位システム)による位置情報とアーム制御システムにより、オペレーターが複雑なレバー操作をすることなく図面通りに工事を仕上げて行くという仕組みを導入する。この「建設オペレーション業(ICT×建設機械業)」という「なりわいワード」の背景には「破壊的イノベーション」への企てがある。

 「なりわいワード」は、必ずしもお客さまや社員を含むステークホルダー全体に発信しなければいけない性格のものではない。しかし、企業によっては広告クオリティーに磨き上げることで、そのままブランドビジョンに置き換わっているケースもある。

 「エクスペリエンス×デジタル」を前面に打ち出した事例ではないが、ユニクロの「LifeWear」(着る人の価値観から作られるシンプルな服を通じて、着る人の生活を変えて行く業)、JINSの「アイウエア業」(メガネを通じて美しく豊かな人生を創造する業)などがその代表例である。自社は何屋か、と問われたと、ユニクロはもはや「ファストファッション業」ではなく、JINSも「メガネ販売業」とは言えない。むしろ両社は「なりわいワード」のレベルでは「ライフスタイル提案業」であるといえよう。「なりわいワード」を再定義することで、企業とお客さまとの関係性が変わり、必然的に提供するエクスペリエンスの質や中身も変わってくる。

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